1. 2023年度の研究実績 2023年度は、11月8日に開催された「九州大学アジアウィーク2023」内のシンポジウム「ラオスとジェンダ――バナナ、少数民族、女性同盟―」における招待講演として、バナナプランテーションを巡るジェンダ―課題―出稼ぎ労働による家族関係への影響に注目して―」と題する報告を行った。ラオスにおける外国投資と土地問題、ラオスの海外農業投資・国内労働移動とジェンダー課題に関する先行研究を整理した上で、女性を含む農民・出稼ぎ労働者自身の「主体的な」選択に注目する必要性を主張した。その上で、フィールドワークの結果と本研究の研究成果の発表を行った。12月19日から23日まで、ウドムサイ県を訪問し、追加調査を行った。農村部からの出稼ぎ先が多様化しており、年代や家族構成によって異なる出稼ぎ先が選択されていることが見えてきた。 2. 本研究(2021年度から2023年度)の成果 3年間の研究を通じて、比較的近隣のバナナ農園への出稼ぎは、隣国タイへの国際労働移動と比較すると、合法かつ参入障壁が小さいこと、出身村との往来が容易であること、家族の帯同が可能であることから、家族を持つ男女に選択されやすいことが明らかになった。他方、労働者本人に加え、帯同する家族の健康被害のリスク、児童労働の敷居の低さといった問題も指摘できる。また、バナナ農園への出稼ぎによって得られた収入を、女性が自ら営む貸金業・小売業に投資することで、家庭内・村内での経済的な地位が高まるといった「成功例」が見られる一方で、バナナ農園での労働に起因する健康被害や麻薬中毒によって、出稼ぎが経済的に「失敗」に終わると、女性の家事労働の負担、生計の担い手としての負担が重くなるケースが見られ、出稼ぎ労働に行った家族に重い健康被害が出るかどうか、麻薬中毒者が出るかどうかといった偶発的な要因が出稼ぎの明暗を分けている。
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