研究課題/領域番号 |
21K17993
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小松田 沙也加 金沢大学, 学校教育系, 講師 (10756381)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | チタン酸ストロンチウム / 固体物性 / 摂動核相関法 / 光触媒 |
研究実績の概要 |
本研究では、γ線摂動角相関(PAC)法という手法を用いて、SrTiO3中にドープされた不純物位置での局在量子構造を研究している。本申請研究ではSrTiO3にドープしたIn3+の占有サイト情報とCd2+の占有サイト情報がそれぞれ得られた。In3+は3種類の占有サイトに位置することがわかった。そのうち1つは電場勾配値がゼロであり、対称性の高い立方晶SrTiO3中のSrもしくはTiサイトを置換しているサイト由来の成分と考えられる。残り2つの占有サイトは、Ti4+位置を置換したIn近傍に電荷補償の酸素空孔が存在するサイトである可能性が高い。なぜなら多くの先行研究例から、Inをはじめとする3価の金属イオンは、SrTiO3中でTi4+サイトを置換し、その近傍に電荷補償の酸素空孔が形成して光触媒活性を向上させるとの報告例があるからである。また、In3+は1%以上のドープ量で二次相のIn2O3を生じ始めることがわかった。一方、2価であるCd2+の占有サイトもIn3+と同様の3種類の占有サイトに位置することがわかった。またその濃度依存性を調べたところ、Cdのドープ割合を20%としても上述の局所構造を保つことがわかり、In3+よりも多量のドーパントが置換されることがわかった。 SrTiO3中への不純物ドープに伴い生じる酸素空孔は、光触媒活性向上へ寄与すると言われていることから、Cd-doped SrTiO3、In-doped SrTiO3に対しバルクの光触媒活性を調査した。In3+のドープについては1%以上で二次相を生じて光触媒活性が低下した一方、Cd2+は20%のドープ濃度でも光触媒活性が上昇したことがわかり、PAC法によって得られた局所構造情報を支持する結果となった。本研究成果は、SrTiO3を用いた光触媒材料設計における新たな指針を与える情報となると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではPAC法により、(1)InまたはCdをSrTiO3中へ固溶させ、均一に拡散させる試料調製法の確立と、(2)不純物としてドープされたInまたはCd近傍に存在すると考えられる酸素空孔について、高温での熱的挙動を解明すること、以上の二つを大きな目的としていた。(1)については達成されたこと、(2)については酸素空孔に関係するSrTiO3の光触媒活性を調べることに成功したため、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。現在は高温での酸素空孔の熱的挙動を調べる実験に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
InやCdのSrTiO3中での占有サイトについて、今年度得られた実験結果と理論計算結果を比較し、より詳細な局所構造情報を得る。 これに加え、SrTiO中に導入されたInまたはCd近傍に存在する欠陥(酸素空孔)について、熱的な安定性を調べる実験を行う。固体中の酸素空孔は試料の温度上昇に伴い十分なエネルギーが与えられると固体中を移動する。この現象は固体酸化物形燃料電池の電極などに用いられる酸素イオン伝導体に応用することができる。他にも、不純物をドープしたSrTiO3中に生じる酸素空孔の挙動が光触媒活性を向上させるといわれている。これらのことから、SrTiO3中の酸素空孔の安定性を調べることが肝要である。PAC法は不純物の占有サイト近傍に位置する酸素空孔の熱的安定性を直接観測することができる手法である。今後の本研究でPAC法により得られるPACスペクトルの緩和から酸素空孔の熱運動を確認し、その動的な挙動について時間スケールを求める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
1.2021年度に参加予定の国際学会等がすべてオンラインでの実施となったことにより、旅費の使用金額に変更があった。 2.局所構造観察に必要な測定機器の購入を予定していたが、その納品に予定外の遅れがあった。測定機器の製造会社の競争相手が撤退したことにより、現在、唯一残っている製造会社である海外1社に需要が集中したこと、半導体材料の供給が不安定になっていることが要因である。なるべく早急に発注予定である。
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備考 |
日本放射化学会第66回討論会(2022)において若手優秀発表賞を受賞
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