研究実績の概要 |
本年は,直接的な描画対象となる日本固有種, 絶滅危惧種植物の実態撮影調査の進行に注力した. 植物個体が持つ形態的情報, 視覚的情報量は色彩,形態,質感を合わせて非常に多い. 画力に長けた牧野博士をはじめとする植物学者による解剖図について, 描画時の実体情報の取捨選択過程を把握することが本研究の目的において重要である.各部位や表層の毛質に至るマクロ画像など, 調査者本人が実体の細部観察による個体の情報を目視し, 撮影によって必要な視覚的情報の記録を重ねた. 実地調査は, 保護林地帯実地調査および本州の植物多様性保全拠点園に指定されている植物園内で実施し,特に多くの希少種が自生する沖縄北部の森林地帯調査においては, 植物分類学分野の研究者陣による協力を得て,絶滅危惧ⅠA類(CR),およびII類(VU)に指定されるラン科をはじめ,複数の国内指定希少野生植物の自生地での様子を観察, 撮影した. 植物解剖図に関する文献調査においては, 牧野富太郎博士自身が描画した時期の原画や関連資料調査から,画材による表現特徴, また石版(リトグラフ)をはじめとする印刷技法による解剖図表現特徴の関連性についての考察を進めている. 牧野の描画手法が江戸時代の本草図譜等から強い影響を受けている点, グラフィックデザインの観点からはCurtisBotanicalMagazine等,欧州の収集資料の影響も認められ,デザイン過程とプロセスについて文献収集と解読・分類考察の初段階を完了した.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は第一段階で危惧種植物の撮影調査と植物図の文献調査、第二段階ではデザイン制作と評価検討から成果発表までを行う計画である。前半の主要な2軸である絶滅危惧種植物・日本固有種植物の実体記録調査, 植物図の文献調査を次年度内は引き続き並行する. 次年度後期以降は植物分類学者によって描かれた解剖図の描画法と造形特徴の研究に重きを置き, これまでコロナ禍で渡航を見送っていた海外の調査対象研究機関(英国キュー王立植物園植物標本館ほか)での文献調査を含めて進行予定である. 最終年度には第二段階の実践段階の研究に取り組み, 評価実験を実施予定である. これまでの第一段階での調査活動は,次段階の試料作成に向けて, 研究代表者の研究内容に非常に重要な知見を与えている. 市井との希少植物の情報共有に資するデザインが適切に役割を果たすためには, 通例のグラフィックデザインとは異なる提案過程の必要性が明確化された.学術的知見に基づいたデザインプロセスを客観的に整理すべく, 植物分類学の研究者との協働的な体制で試料(図案)を作成し, 実験評価に向けた準備の進行を重要視している. 図案デザインの実務制作を行ってきた研究代表者の着眼点から,植物解剖図がもつ造形的価値と美的意匠性のハイブリッドデザインに応用する実践研究の段階を目指し, 感性・嗜好性を惹きつける図案表現を両立させるデザイン手法の構築を目指す.
|
次年度使用額が生じた理由 |
2年目の調査計画にあった海外研究機関に収蔵される植物学者による植物図原画の調査の実施を次年度に見送り, 渡航費の額面を次年度使用額に変更したことが主な事由である. また, 渡航計画の変更に伴い, 一部は文献調査に替えた支出とした. 当初より, 申請書には右記(※COVID19により渡航困難な場合 : 国内調査段階を強化し,適宜第2段階開始を繰り上げる)との記載を行っており, これに沿った変更となった. 海外調査の内容は, 主に牧野文庫の所蔵図鑑原本および非所蔵の以下資料群について,原図の目視記録調査を行う内容である. [ 牧野博士が多数模写した英国の植物図鑑原図 ]英国キュー王立植物園植物標本館[ 日本固有植物図の原画 ]ライデン大学図書館, トプカプ宮殿博物館附属図書館
|