最終年度では岩手県小岩井農場を対象とし,歴史的農畜産業施設の空間特性を形成する運搬・物流を担う交通路に着目し,農場内の主要交通路の変容過程および主要施設との配置関係が現在の小岩井農場の空間的特性にどのような影響を与えているかを考察し,それら空間特性の獲得経緯を明らかにした。拠点間交通路の変容過程および施設配置が,現在の農場の空間特性にどのような影響を与えているか,運搬技術の発展および道路整備の過程から5つの時期に分け,各時期にみられる特性および変容過程を整理して考察した。各時期の特性として,1)開設初期の既存主要動線を基軸とした下丸・上丸地区の二拠点配置による事業開始期,2)岩崎久弥の事業継承後の生産環境整備による,現在に至る上丸・中丸・下丸地区の三拠点配置関係の形成期,3)馬車鉄道敷設による拠点間交通路の運搬能力向上と生産拠点整備の充実期,4)場外の交通インフラ整備に伴う現在に至る小岩井農場の交通動線の骨格形成期,5)戦後の社会インフラである道路整備と自動車の普及にともなう既存主要動線の消失と農場内生活環境の変化期に整理される。 研究期間全体を通して、明治期に開設され現在まで経営が続いている歴史的農畜産業施設の事例として①岩手県小岩井農場、②群馬県下仁田町神津牧場、③栃木県那須塩原市那須千本松牧場、また戦後の観光・レクリエーションの大衆化を背景に開設された事例として④群馬県渋川市伊香保グリーン牧場、⑤千葉県富津市マザー牧場の実地調査を行った。開設年度、敷地面積、所在地などの基本情報に加え、1)土地利用の経年変化(施設更新、敷地拡張、ゾーン整備など)、2)牧場敷地の選定経緯、3)敷地計画の策定経緯、4)周辺環境との関係性(周辺地域の産業への影響)、5)牧場施設一覧、といった構成要素の抽出と整理作業を進め、歴史的経緯も含めた牧場施設としてのサイトプランについて知見を得た。
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