本研究では、科学の中で生じているエコーチェンバー現象の一端を収穫と探索のジレンマ問題であるとみなし、実験ゲーム理論および、意思決定科学の知見を用いて、大規模な実験室実験を行った。具体的には科学者が置かれている状況を一種の反協調ゲーム状況と考え、制度を切り替えられるエルファロル・バー・ゲーム(EFBG)を実施した。20人以上からなる集団を3つ作り、参加者は2つの制度を自由に行き来した。一方では自ら他者と協調するのか協調しないのかを選べる制度と、もう一方ではコンピュータによって自らの意志を委ねることができた。EFBGでは制度に参加した3分2以上がバーに行くと満員となり0ポイント、未満であれば10ポイント、バーに行かないことを選んだ場合に5ポイント取得できた。このゲームを20試行行うと、反協調行動が進み(ここではバーに行き続ける行為、言い換えると科学にとってよろしくない行為を行う)、自ら選択する権利を放棄し、コンピュータに決定権を委ねる行動が増えると予想した。 その結果、予想に反し参加者は自ら選ぶ制度から離脱するのではなく、むしろ自ら選ぶ制度へ参加者の人数が増加することが見られた。また、自ら選ぶ制度のなかでは、分業に近い均衡が生じ、損をし続ける参加者と得をし続ける参加者に二分化された。つまり、非協調的な社会がバーに行かない参加者によって維持され、コンピュータへの移行を阻害したことが示された。この結果が単純な強化学習モデルで説明できるか検討したところ、強化学習モデルでもそれぞれの制度にほぼ等分入る状態が定常化することがわかり、かつ自由に選べる制度では分業が生じることが示され、参加者の行動が予測されることが示された。追加実験でも同様の結果が示されたため、現在結果を合わせて論文を投稿中である。
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