研究実績の概要 |
本研究の目的は,複雑で動的な3人以上の運動協調で求められる調整,そしてその背後にある認知情報処理のモデル化である.認知科学や心理学,スポーツ科学,生物学,神経科学等の分野で運動協調は数多く研究されている一方で,上記のメカニズムは未だ十分に理解されていない.当該年度は,3人1組で各自がリールを回し糸の張力を変え,3本の糸につながれた1本のペンを動かし正三角形をなぞる課題(丸野, 1991, 発達心理学研究; Ichikawa & Fujii, 2021, CogSci 2021)を用いて不均一な役割を運動方程式で定式化した.具体的には,手元へ引き寄せるように主導でペンを動かす糸を「張る」役割,ペンがスムーズに移動するように対応する「緩める」役割,そして2つの役割が遂行されたことでペンが辺の幅から逸脱しないように,あるいは移動にタイムロスが生じないように集団全体のバランスをとる「適度に張る」役割をルールベースで数理モデル化した.なお,先行研究の行動実験 (Ichikawa & Fujii, 2021) ではペンや張力を時系列で計測し,3つ目の役割が課題の成果を示すパフォーマンスに関連することが統計モデルから推定された. シミュレーションを行い,行動実験と比較した結果,提案したモデルで3辺をなぞることができ,かつ一部の辺で行動実験と同程度のパフォーマンスを達成したことが確認された.少なくとも3辺をなぞるためには「適度に張る」役割が3人のリール操作の結果を反映するペンの逸脱量に関する情報を参照する必要がある可能性が示唆された.行動実験だけでは議論することが難しかった運動協調で重要な役割の調整過程や予測認知等の構成論的な理解が進むかもしれない.一連の取り組みは,国内の学術大会で成果を報告した.
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