研究課題/領域番号 |
21K18035
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
田中 浩揮 千葉大学, 大学院薬学研究院, 助教 (60801743)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | mRNA送達 |
研究実績の概要 |
自己免疫疾患の標準治療である免疫抑制薬を用いた病態制御は、生涯にわたる服薬が必要なうえ副作用が強い。本疾患の高いアンメットニーズを充足するには、患者体内に存在する自己反応性T細胞を抑制し、自己抗原に対する免疫寛容を成立させる必要がある。非炎症時の末梢組織では、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞が末梢免疫寛容を成立させる。本メカニズムに基づく治療原理として、免疫抑制性の低分子やサイトカインを用いて体外で誘導した寛容性樹状細胞(tolerative-DCs; tol-DCs)による細胞治療が提唱されてきた。従来のtol-DCsは患者体内へ投与されると、免疫抑制シグナルのインプットを失うとともに炎症環境に曝露されるため、生体内で炎症性に再誘導され炎症を増悪してしまうことが懸念されている。また、ペプチド処理により付与された抗原の特異性については、タンパク質のターンオーバーに従い消失することが懸念されている(図1b)。本問題点を解決するためには、生体内で持続的に樹状細胞の表現型を改変し続けるための技術が必要と考えられる。 本研究で我々は、インビトロ転写により作成されたmRNAを用いて樹状細胞の表現型の改変を試みる。mRNAは数日以上のオーダーで細胞内でタンパク質へ合成され続けることから、上記の持続的な表現改変に適する可能性が挙げられる。1年度目である今年度は、Ly-6C(low)/CD11c(high)群の単離とベクターの最適化を実施した。その結果、単離した当該細胞へのトランスフェクションは遺伝子発現に繋がらなかったことから、当該細胞のフェノタイプへの変化はトランスフェクションの後に起きているものと考えられる。ベクターの最適化により、樹状細胞に対し72時間以上にわたり遺伝子を導入可能な製剤が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一年度である本年度で我々は、Ly-6C(low)/CD11c(high)群の単離とベクターの最適化を実施した。Ly-6C(low)/CD11c(high)群の単離を試みた理由として、骨髄由来樹状細胞へEGFPをトランスフェクションした際に、当該フラクションにおける遺伝子発現が顕著にみられたことによる。本知見を基に我々は、骨髄由来樹状細胞のcell mixtureからセルソーターによってLy-6C(low)/CD11c(high)群を単離し、mRNAのトランスフェクションを行った。しかしながら、単離された本フラクションの細胞はmRNAを発現しないことが明らかとなった。このことから、骨髄由来樹状細胞のmixtureの中に本細胞群の前駆体が存在し、トランスフェクションと並行して形態が変化している可能性が示唆された。 ベクターの最適化にについては、5因子3水準の実験計画法を採用して効率的に実施した。その結果、リン脂質の種類と量が遺伝子発現を左右することが明らかとなった。最適な条件で作成されたmRNA搭載ナノ粒子はルシフェラーゼ発現量で2倍のAUCを示し、特に72時間後まで遺伝子発現を持続可能であることが、表現型のリライティングには有用であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までに樹状細胞のcell mixture中の標的細胞は明らかとなっていないため、mixtureの状態で免疫抑制性因子の導入を行う。免疫抑制性を有する細胞内タンパク質の鋳型pDNAの設計は既に完了している。これらの遺伝子を骨髄由来樹状細胞に導入し、表現型の変化を追跡する。具体的には、免疫抑制性サイトカインであるIL-10の発現を解析する。また、予定通り、抗原mRNAのシグナル配列の改変を実施し、MHC-class IIへの提示を促進できる方法論を探索する。非翻訳領域のスクリーニングに関しては、ランダムRNAライブラリは作成可能であるため、引き続き継続して樹状細部に効率的に遺伝子を導入可能な方法論を確立する。
|