本研究では,光学的に線維症を詳細解析するため,非線形光散乱を光プローブとして用いることにより,線維症の病態の理解と治療に向けた知見を得ることを研究の最終目的とする. 令和5年度の活動と実績として,令和4年度に開発した自発ブリルアン散乱顕微鏡を生体組織のイメージングに適用した.ブリルアン・スペクトル計測を行いながら,顕微鏡ステージ走査によるXYイメージングを行う測定・制御系を構築した後,MASHモデルマウス肝臓組織の凍結切片の脂肪滴に着目して測定を行った.ここでは,ブリルアン散乱顕微鏡と同じ顕微鏡筐体に搭載された偏光顕微鏡により,脂肪滴中の脂質分子の結晶性に基づいて3パターンの脂肪滴を分類し,ブリルアンイメージングを適用した.ブリルアン・スペクトルにおいて対象の弾性率に比例した値が得られるブリルアン周波数シフト量に着目し,イメージングで得られた各脂肪滴のブリルアンシフトの平均値を計算・比較した結果,結晶性の高さとブリルアンシフト量に相関があることが確認された.蓄積脂肪滴の配向・結晶性とMASLDの悪性進行には関係があることがしばしば示唆されており,本結果からブリルアンシフトを用いることで定量的な評価が可能となると考えられ,得られた結果について国内学会および国際学会にて発表を行った. 加えて,線維化により沈着したコラーゲン線維を配向と結晶性の観点から肝線維化を定量評価する目的として,偏光分解第2高調波発生光顕微鏡を用いた解析を行った.線維化段階がF0からF4の剖検症例から得られた肝臓組織切片を用いて解析した結果,偏光分解第2高調波発生光解析で得られる線維の結晶性が線維化段階によって異なる値を示すことを確認し,本手法を応用することでヒト肝線維症におけるコラーゲン線維の特性に関する新しい情報を付与できることが確認されたため,得られた結果をまとめ,論文投稿を行った.
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