研究課題/領域番号 |
21K18040
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研究機関 | 公立小松大学 |
研究代表者 |
鈴木 郁斗 公立小松大学, 保健医療学部, 助教 (10880768)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 近赤外分光法 / 汗中成分 / 脱水症 / 試薬レスモニタ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、熱中症発症の危険因子である脱水症を未然に防ぐため、「汗に含まれる複数のカチオン濃度を推定するウェアラブルデバイスの実現」である。前年度は塩化ナトリウム及びリン酸水素二カリウムの各単一成分水溶液におけるNa及びK濃度推定を試みたが,ヒトの汗には多くの成分が含まれる。そこで今年度は塩化ナトリウムとリン酸水素二カリウムを多段階濃度で添加した多成分系水溶液を計測サンプルとして,Na及びKが互いに推定精度に影響を与え得るかを検討した。多成分系水溶液の各溶質濃度は,Na:50,150,250 mg/dL,K:30,60,90 mg/dLとし,全9濃度の水溶液をサンプルとした。なお、サンプルの実測濃度は市販のイオンメータの測定値とした。 FT-IR型分光器を用いてサンプルとその溶媒である超純水の透過光強度スペクトルを取得し、差分吸光度と実測濃度から重回帰分析により検量モデルを作成した。システムの小型化を目指し,1400-2300nmの10波長以下の波長数を使用した波長数限定解析を行ない、実測値と推定値の相関係数γおよび標準予測誤差(SEP)によって評価した。その結果,1桁台の波長数を用いて,Naではγ=0.994,SEP=9.20 mg/dL,Kではγ=0.990,6.87 mg/dLを示した。前年度の単一水溶液の結果に比べて遜色ない推定精度を確認した。 また,システムの小型化を検討するため,小型スペクトルメータでの実験を予定していたが社会情勢の変化により当該製品の入手が難しくなった。そこで予備実験としてハロゲン光源とファブリペロー型の超小型分光器を用いた単一水溶液の濃度推定実験も実施した。FTIR型分光器での結果に比べるとプロットのバラツキはあるものの,NaとK共にγ>0.88と強い正の相関を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FTIR型分光器での計測については当初計画よりもやや遅れているものの,多成分系水溶液においてNa及びKの高い推定精度を確認した。これと並行して,超小型分光器を用いた濃度推定実験を追加実施できたため,おおむね順調と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究により,FTIR型分光器を用いた計測系において多成分系水溶液に含まれるNa及びKを1桁台の波長によりγ>0.990と高精度で推定可能であることを確認した。 今後は計画の最終年度として,以下のようにFTIR型分光器および超小型分光器での実験を進めると共に,これまでの研究のまとめを実施する。 1.FTIR型分光器を用いた人工汗液中の濃度推定実験:これまでは塩化ナトリウムとリン酸水素二カリウムを混合した水溶液を計測対象としていたが,よりヒトの汗の組成に近い人工汗液をサンプルとしてNa及びKの濃度推定を実施する。多成分系水溶液よりも多種の成分を含むサンプルにおいて,それら成分の影響が少ない波長の選定に取り組む。 2.超小型分光器に用いた濃度推定実験:多成分系水溶液における濃度推定実験を実施すると共に,ハロゲン光源を用いない分光器単体での反射光計測による濃度推定を行う。 3.Na及びKのスペクトル取得:概要で示したように分子構造を持たない2つのイオンを光学的に推定可能であることを確認した。その要因を検討するため,各溶質のスペクトルを取得する。
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次年度使用額が生じた理由 |
社会情勢の影響で購入予定の小型スペクトルメータを入手できず,購入時期を3ヶ月程度先送りにした。次年度使用額は同様の用途で使用する予定である。
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