研究課題
本研究は、細胞が足場曲率に応じて表現型を変える仕組みを調査した。アクチン細胞骨格と細胞核の結合を仲介するNesprinをノックダウンした血管平滑筋細胞を曲面上で培養したところ、曲率依存的な細胞の表現型変化が抑制された。一方で、この細胞に対して、培養面に押し付けるような圧力を加えたところ、細胞の表現型変化が促された。この結果は、細胞核の変形が、細胞が足場の形状を検知するためのセンサーとなっていることを示唆する。また、曲面上で培養された血管平滑筋細胞内における、転写因子MRTFおよびYAPの局在を調査した。曲面及び平面で培養された血管平滑筋細胞内でMRTFの局在に違いが見られなかった一方で、YAPは曲面上でより顕著に細胞質内に局在した。これまでに、細胞核の圧縮がYAPの細胞核内移行を促すことが知られているが、血管平滑筋細胞は逆の傾向を示した。このことは、血管平滑筋細胞が他の細胞とは異なる機械応答を示す可能性を示唆している。また本研究は、立体曲面上で血管平滑筋細胞が示す変形挙動を詳細に解析し、細胞の張力発揮に起因する剥がれ現象を定量的に描写する物理モデルを構築した。これらの成果は、足場が持つ曲率半径数百マイクロメートルの緩やかな曲面構造が、細胞間に働く力学バランスや、細胞内のシグナルに影響を与え、細胞の振る舞いを大きく変えることを実証するものである。今後、これらの治験に基づき、曲面からなる細胞培養足場を設計・構築することで、これまでに無い形状入力に基づく細胞の振る舞いの操作が可能になると期待される。
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Acta Biomaterialia
巻: 166 ページ: 301-316
10.1016/j.actbio.2023.05.012