研究課題/領域番号 |
21K18047
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
橋本 剛佑 関西学院大学, 生命環境学部, 助教 (30868831)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ラマン分光法 / 神経発達毒性 / 神経細胞 / ビスフェノールA / ケモメトリックス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,化学物質が神経細胞におよぼす長期的な影響を評価できるような,細胞の分子ダイナミクスと活動電位ダイナミクスを長期間にわたり追跡できる実験系を構築することである.現有の自作ラマン顕微鏡を改良し,同一の細胞に対し,生きた状態での膜電位蛍光イメージングとラマン測定を同時に実施できる装置の構築に着手した.本研究の遂行に必要な分光特性をもつ蛍光フィルターを顕微鏡に取り付けるためにはフィルターキューブを特注する必要があった.しかし,新型コロナウイルス感染拡大にともない特注対応を中止しているメーカーが多かったため,当初の予定を変更し,フィルターの切り替えによって蛍光イメージングとラマン測定のいずれかを実施できる系を構築し,研究を開始した.分散培養された神経細胞が作る神経回路網の発達状態が化学物質に対する感受性に影響を与えるという仮説を実証するための実験を実施した.具体的には,培養日数の異なる神経細胞(培養15, 30, 60日目)にビスフェノールA(BPA)を添加し,添加直後から添加後5時間まで,1時間毎に神経細胞のラマンスペクトルを取得し,主成分分析(PCA)による解析を行った.その結果,培養15, 30日目のBPA添加群とコントロール群でラマンスペクトルの違いが観測された.一方,培養60日目の細胞から得られたラマンスペクトルを解析した結果,BPA添加群とコントロール群でスペクトルに顕著な違いが見られなかった.以上の結果は,神経回路網が成熟すると化学物質への耐性を獲得することが示唆された.現在は再現性の確認と,蛍光画像から細胞膜電位を定量し,機械学習を用いた神経回路網の活動パターン解析基盤の構築を実施中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
蛍光イメージングとラマン測定を同時に実施するための機能の実装はできなかったものの,当初の予定よりも細胞のラマンデータの取得と解析をすすめることができた.また,ラマンスペクトル解析から神経回路網の成熟状態と化学物質への耐性の関わりを示唆する結果が得られたため,進捗状況は概ね順調と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
これまで実施した実験の再現性の確保を行う.蛍光画像から細胞膜電位を定量し,機械学習を用いた神経回路網の活動パターン解析のためのプラットフォームを完成させる.さらに,BPAの曝露時間をより長くした神経細胞のデータ収集を実施し,BPAの神経発達毒性を評価する手法の確立を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
蛍光とラマンスペクトルの同時測定系のための部品を特注する必要があったが,新型コロナウイルス感染拡大にともない特注対応を中止しているメーカーが多く,フィルターの切り替えによって蛍光イメージングとラマン測定のいずれかを実施できる系の構築に計画を変更したため.また,研究成果を発表した学会が全てオンライン開催となり,予定していた交通費と宿泊費が発生しなかったため.次年度は実験に必要な試薬や動物の購入に使用する.
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