研究課題/領域番号 |
21K18054
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山川 学志 大阪大学, 医学系研究科, 特任研究員(常勤) (40816740)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膝関節外傷 / 生体医工学 / 半月板 |
研究実績の概要 |
当該年度は,アスリートなどにおいて特に頻発する障害である半月板損傷に対する治療の評価を中心に実験等を実施した.半月板は膝関節に存在する組織で,膝に加わる負荷を分散する,膝関節を安定させる,良好な潤滑を保つ,などの重要な機能を持つが,スポーツ外傷の中でもその発症率は高い.半月板損傷の治療には,損傷した部位を縫合する半月板縫合術が行われるが,その縫合方法が術後の縫合部安定性に及ぼす影響は不明瞭な点が多いため,本研究ではそこに焦点を当てて研究を進めた.試験には,材料試験機と画像解析を用いた.試料として用意したブタ半月に対して人為的に損傷を作製し,縫合部位に繰り返し引張荷重をかけることで縫合部の安定性を繰り返し荷重前後の縫合部(縫合針刺入部)間の距離の変化として定量化した.比較群として,縫合針を半月板実質に通した群,一方を半月板実質もう一方を半月板近傍の関節包に通した群,一方を半月板実質もう一方を半月板から10 mm離れた位置の関節包に通した群の3群を用意した.現在までに得られた結果として,同様の縫合方法であっても縫合する際に縫合針(糸)が半月板の実質部でなく関節包にかかってしまうと術後に縫合部が大きく離開(拡大)してしまうことが分かった.術後の損傷部位治癒過程において,縫合部が安定してその状態を維持することが非常に重要であるが,本結果は,関節包に糸がかかることが治癒過程に影響を及ぼす可能性とリスクを明らかにした.ただし,現状,実際の臨床で半月板を縫合する際には,その状況に応じて関節包に糸を通さざるを得ない場合もあるので,半月損傷と縫合の状態をさらに分類して状況ごとの影響を調べる必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに,半月板損傷に対する治療の評価を中心に研究を進めてきたが,それらの成果をまとめて国内外の学会に報告した(第48回臨床バイオメカニクス学会,Orthopaedic Research Society Annual Meeting 2022).また,データの取りまとめができた段階で医学系雑誌へ論文を投稿し,査読の結果Journal of experimental orthopaedicsに掲載された.ここまでの成果報告状況として自己評価としてはおおむね計画通りであると判断する. 現在までに報告した内容は,論文掲載も済んでいることから手法の確立も十分であり,同様の手法を用いた今後のさらなる検討において,不安要素は少ないと考える.今後は,これらの検討に加えて異なる膝関節障害に対する検討を行っていく予定であるが,この状況は,そちらへ割く時間を確保するうえでも好影響であるといえる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,半月板縫合術の検討で明らかになった結果をもとに,臨床での状況をさらに反映させた条件下での実験を進めていく.これらの検討において,基本的に手法はすでに報告済みのものを踏襲してデータ収集を行う. また,初年度では半月板縫合術の評価に注力したが,研究計画にあるもう一つの重要な膝関節外傷である前十字靭帯(ACL)損傷についても次年度は検討を進めていく.前十字靭帯損傷も半月板損傷と同じくアスリートに多いスポーツ外傷であるが,その治療法であるACL再建術はその術式が多岐にわたっており,これらの評価や比較は急務である.本研究では,関節力学試験ロボットシステムを用いて,関節に対する力学試験を行うことで膝荷重時における再建術の安定性や再建グラフトの状態から,定量的に術式の比較を行う.関節力学試験ロボットシステムについてはすでに様々な研究で扱われているため,手法としては十分に確立されている.それに対して画像解析を併用することで前述のパラメータを定量化する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は,半月板損傷に対する治療法の評価で多くの成果を得ることができたが,そちらの発展した検討などに注力したため,前十字靭帯再建術の評価の主たる実験を次年度に行うこととした.そのため,それらの実験に必要な物品の当該年度中の購入を見送ったため,次年度使用額が生じた. 次年度使用額も併せて交付決定済みの経費については,実験検体やジグ,薬品などの必要物品の購入に適宜当てていく.
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