研究課題
本研究課題では、生体適合性に優れた自己修復性ダブルネットワークゲルの作成を目的とする。本年度は、本研究の根幹となる材料の選定とそのダブルネットワーク化に関する研究を行った。動物性由来材料、または一般的にダブルネットワーク化するための材料であるアクリルアミドは、細胞毒性の原因となるシグナルを伝播するため、細胞と接触するバイオマテリアルの設計に適さない。そこで本研究では、FDA に承認済みの材料であるポリエチレングリコール(PEG) と自己組織化ペプチド(RADA16) を組み合わせることで、完全合成材料からなるダブルネットワークゲルの作成を目指した。これら二つの材料は、ペプチド分子間の自己組織化、及びPEG 分子間の架橋反応により、それぞれネットワークを形成する。これらの分子を適切な濃度で組み合わせると、第一にペプチドネットワークが形成され、引き続きPEG ネットワークが形成することがわかった。このネットワーク形成様式は、光照射などを介する通常のダブルネットワーク形成手法とは異なり、生体適合性に優れる。さらに、この多段階方式で作成したゲルの破壊エネルギーは、通常のPEG ゲルと比較して4 倍向上したことから、ゲルのダブルネットワーク化が示唆された。さらに、作成したゲルの表面に播種した細胞は、良好な細胞接着性が確認されたことから、生体適合性にも優れることが判明した。このように、PEG とペプチドからなる生体適合性のダブルネットワークの作成は、ダブルネットワークゲルが最初に発表されて以降、初めての試みである。
2: おおむね順調に進展している
完全合成材料からなる生体適合性に優れたダブルネットワークゲルの作成に成功したため。
前年度は、材料選定とそのダブルネットワーク化に着目して研究を行った。本年度は、更なる強靭化、及び自己組織化特性の付与を行う。当研究室では、高分子ゲルを伸長した際の結晶誘起化を駆使することで、伸び率が測定不可能な強靭化ゲルを開発している。この強靭化機構を用いることで、ペプチドを用いたダブルネットワークゲルがどこまで強靭化するのか、さらにその強靭化メカニズムに関して調査する。強靭化メカニズムに関しては、高分子ゲルの伸長方向に対して応力分布を観察可能な偏光カメラを用いる。また、自己修復性に関しては、PEG 同士の架橋様式をシッフ塩基結合に変更することで付与する。このように、完全合成材料からなるPEG とペプチドからなるダブルネットワークゲルに関して体系的に調査することで、新たな材料設計指針の提供を目指す。
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bioRxiv
巻: - ページ: -
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