研究課題
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は先進国における患者数増加が報告されており、進行すると肝硬変や肝臓がんを誘導する基礎疾患である。核酸医薬を用いた効果的NAFLD/NASH治療法の開発が期待されるが、現段階で十分な量の核酸医薬を肝実質細胞へと送達する技術は存在しない。肝臓に対する核酸送達担体として、肝実質細胞に特異的に取り込まれるガラクトース担持高分子材料が使用されているが、核酸の安定化が不十分である。そこで申請者は、優れた核酸担持・エンドソーム脱出能を有する中空水酸アパタイト(HAp)ナノ粒子を、肝実質細胞特異性のあるガラクトースポリマーで被覆することで、ガラクトースポリマーの肝実質細胞特異性とHApの核酸担持・エンドソーム脱出能を両立した核酸医薬送達キャリアを作製できると考えた。具体的には、肝細胞に特異的に吸着・貪食されるガラクトースポリマーを粒径50 - 500 nm程度の中空HApナノ粒子に修飾することで、効果的な核酸医薬(IL-11 siRNA)の肝実質細胞への送達を目指す。本年度は、中空HApナノ粒子の合成を健闘した。具体的には、鋳型となる炭素ナノ球をグルコースを用いた水熱合成法にて合成した。。グルコース濃度、反応温度、反応時間が作製される炭素球の形態や粒径に与える影響を検討し、粒径200 nm - 5 um の範囲で炭素球を作製した。次に、作製した鋳型炭素球表面にHApを析出させ、鋳型炭素球を燃焼させることで中空HApナノ粒子の作製を試みた。リン酸水素二アンモニウム及び塩化カルシウムの濃度や、撹拌時間が中空HApナノ粒子の各パラメータに与える影響を評価した。また、中空HAp粒子を表面修飾するための高分子も合成し、吸着試験を行った。
2: おおむね順調に進展している
2021年度では、mRNAキャリアとなる水酸アパタイト中空ナノ粒子の合成を試みた。鋳型となる炭素球の粒径を制御する手法を明らかとし、これを利用することで目的の粒径(500 nm程度)の水酸アパタイト中空ナノ粒子の合成に成功した。また、水酸アパタイト粒子表面を機能化するためのポリマー重合を行った。具体的にはリン酸基を有するメタクリレート系モノマーを可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合により複数の重合度を持つポリリン酸ポリマーを合成した。合成したポリリン酸ポリマーは水酸アパタイトナノ粒子の表面に強力に吸着する特性を示した。また、ポリリン酸ポリマーを吸着した水酸アパタイト粒子に対するアルブミン吸着試験を行った結果、強力にアルブミン吸着を抑制することが明らかとなった。
1. ガラクトースモノマーを合成し、RAFT重合によってリン酸吸着機能と肝細胞特異性を有するPoly(PP-LAMA)を合成する。2. 作製した水酸アパタイト中空ナノ粒子に対するポリマーとsiRNAの吸着・搭載試験を行う。3. NASHモデル肝細胞に対して作製したsiRNA搭載水酸アパタイト中空ナノ粒子を播種し、IL11の産生抑制機能を評価する。
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