本研究では、脳梗塞部位血液脳関門(BBB)に対する標的化リポソームと、BBB透過能を有する細胞外小胞エクソソーム(Exo)、2種類の機能性ナノ粒子を膜融合させることで、リポソームとExoの機能を併せ持った革新的薬物送達システム(DDS)の開発を目的とした。最終年度は、①カルシウム融合法を利用したホスファチジルセリン(PS)リポソームと間葉系幹細胞由来Exoの構築とin vitroにおける機能評価、②マイクロフルイダイザーによる超高圧乳化処理(HPH)を利用した機能性Exo製剤の開発、に関する検討を行った。 ①の検討では、初年度の検討結果に基づき、PSリポソームとMSC-Exoの膜融合を確認できた。また、構築した融合ナノ粒子を蛍光標識し、ヒト脳血管内皮細胞株hCMEC/D3細胞に添加したところ、融合ナノ粒子はMSC-Exoと同程度の細胞内取り込みを示し、融合ナノ粒子の膜中にMSC-Exoの膜タンパク質が保持され、その機能が発揮されたことが示唆された。しかし、粒子径制御が難しく再現性が乏しいこと、またスケールアップを考慮した簡便かつ効率的なExoの高機能化の必要性から、次の手法として②の検討に着手した。炎症部位標的化への使用実績のあるマウスマクロファージ様細胞Raw264由来のExoをモデルExoとして使用し検討を行ったところ、ExoへのHPHにより、平均粒子径を10-20 nm程度減少できる一方で、粒子形状やExoマーカータンパク質発現やがん細胞への取り込みに影響がないことが明らかとなった。また、HPHはExoへのポリエチレングリコール修飾脂質および低分子抗がん剤の一製剤工程での同時搭載を可能とし、構築した高機能化Exoはin vivoにおいて高い腫瘍成長効果を発揮した。このことから、Exoの高機能化において、マイクロフルイダイザーを用いたHPHが有用であることが示唆された。
|