前年度までに、水和水量が多い非水溶性高分子からなるコアセルベート状微粒子が、細胞膜の水和水量が少ない癌細胞に対して顕著に集積し得ることを見出している。本年度は、このような癌細胞-高分子間相互作用におけるメカニズムの検討を実施した。まず、細胞膜表面の水和水は最表面の糖鎖によって制御されていると考え、細胞膜表面の糖鎖分子を酵素により消化し、癌細胞膜-非水溶性高分子間の相互作用を原子間力顕微鏡により評価した。その結果、ヒアルロン酸由来のグリコシル結合を分解するヒアルロニダーゼ処理した際には癌細胞膜-非水溶性高分子間の相互作用力が減少し、シアル酸由来のグリコシル結合を分解するノイラミニダーゼ処理した際には相互作用力が顕著に増加した。このような相互作用力の変動は、非水溶性高分子の親水性や水和水量と比例関係が認められた。さらに、水晶振動子マイクロバランス法 (QCM)を用いて非水溶性高分子と糖鎖分子間の相互作用を評価した。コアセルベート状微粒子をQCM基板上に展開し、ヒアルロン酸またはシアル酸を構成する三糖、四糖を作用させた。その結果、癌細胞に対して集積性を示さない非水溶性高分子では、どちらの構成糖分子の吸着が認められないものの、癌細胞に対して集積性を示す非水溶性高分子では、ヒアルロン酸の構成糖分子の吸着が認められた。ここで、細胞膜上のヒアルロン酸受容体として知られるCD44をノックダウンさせることでコアセルベート状微粒子を作用すると、癌細胞に対する集積性は顕著に抑制された。これらの結果を統合すると、特定の水溶性を有する非水溶性高分子は、シアル酸との相互作用を抑制し、ヒアルロン酸と高い相互作用を示し得ると考察される。したがって、非水溶性高分子からなるコアセルベート上微粒子の癌細胞-高分子間相互作用は、糖鎖分子との相互作用が大きく関与していることが明らかとなった。
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