研究課題/領域番号 |
21K18071
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
張 慧 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (80794586)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シリコンナノワイヤ / バイオセンサ / アスペクト比 / 表面処理 / 超高感度検出 / 医用システム |
研究実績の概要 |
本研究では、感染初期段階で微量ウイルスを高感度かつ迅速に検出するため、Siナノワイヤ(NW)のアスペクト比を調節することで高感度化の可能性を探求し、SiNWの表面修飾法と検出系の構築による超高感度バイオセンサシステムの開発を目的とする。2021年度は、所属機関のコロナ対応方針で一定期間の出張が制限されたことにより、東京大学の共同利用設備の利用頻度が少なくなったため、当初計画を一部変更して以下の成果を得た。 (1)アスペクト比1のSiNW形成条件の検討:幅と高さのアスペクト比1のSiNWを作製するため、NW形成する前に反応性イオンエッチングでSOI基板のSi層の膜厚を20 nmに調整した。その後、電子線描画法の露光条件を調整することで最小幅13 nmのNWを形成した。反応性イオンエッチングによるNWをSi層へ転写することで、幅11 nmのSiNWが形成できた。Si層の厚さは20 nm程度であるため、SiNWのアスペクト比は1より少し大きいと考えられる。 (2)SiNW表面へのHigh-k絶縁膜形成:SiNW内部の電子の生体分子に対する応答性を向上させるため、スパッタ装置を用いてSiNW表面に厚さ10 nmのHigh-k絶縁膜Si3N4とHfO2を成膜した。 (3)SiNW表面の親水化処理による親水性の評価:検出ターゲットとなる生体分子を認識する抗原分子を効率的にSiNW表面に付着させるため、a)希塩酸処理;b)酸素プラズマ処理;c)オゾン処理によるSiNW表面の親水性を改善できるか調査した。a)~c)処理後の基板は接触角計を用いて親水性を評価した。結果として、希塩酸処理と酸素プラズマ処理で基板の親水性が改善できたが、希塩酸処理では長い処理時間をすること及び酸素プラズマ処理では基板表面が粗くなることを確認した。10分間のUVオゾン処理で基板の親水性が大幅に改善できたことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究がやや遅れている理由は、前述のようにコロナの対応で東京大学の装置の利用頻度が減少し、精密な条件だしができていなかった。実施できない項目の代わりに2年目に実施する予定であった一部の研究項目を前倒して実施し、前述の成果が得た。 (1)では、電子線リソグラフィの条件を調整することで、以前の形成限界幅20 nmより6-7 nm程度細線化できた。この点は大きな進歩であると考えられる。以前実施した反応イオンエッチングでは、エッチングによってNW幅を10 nm程度細線化できたが、2021年度に実施したエッチングではエッチング前後のNW幅がほぼ変わっていなかったことが分かってきた。エッチング条件の再確認が必要と考えるが、東京大学へ出張の頻度が少なくなったため、NWのサイドエッチングを増やすエッチング条件の確立を達成することができなかった。 (2)ではスパッタ装置を用いて、前述の研究で形成したSiNWの表面に高誘電率の絶縁膜を成膜した。スパッタの高周波パワーとガス流量を調整することで、膜厚10 nmの絶縁膜形成条件を確認した。 (3)は当初に2年目に実施する予定であったが、群馬大学の学内で実施可能な研究を推進し、前倒しで本研究を推進した。異なるセンサ表面処理法による接触角を測定することで最適な親水化条件を確認できた。センサ表面の親水性を改善することで、生体分子の付着率の向上及び高感度化が期待できると考えている。 以上の理由より、研究が遅れている項目があるものの、進展した部分があるため総合的にはやや遅れていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、以下の2項目について研究を進める。 (1)幅10 nm以下かつアスペクト比1のSiNWの作製: 反応性イオンエッチングのガス種、ガス流量、バイアスパワーなどを調整し、NWのサイドエッチング量を増加させる条件を調査する。これにより、電子線リソグラフィで形成した幅13-14 nmのレジストNWを幅10 nm以下へ低減できると考える。また、細線化したSiNWの高さを調整することで、アスペクト比1のSiNW構造を実現する。 (2)センサ検出感度の評価:生体分子の特異的な検出を実現するため、提案したSiNW表面処理法を用い、センサの感度、特異性および再現性を評価する。1)前年度確立した成膜条件を用いて、SiNW表面に高誘電率の絶縁膜を数nm形成する。センサへゲート電圧を印加して、チャネル電流が安定的に変化できるかを評価する。2)UVオゾン処理で絶縁膜表面の親水性を向上させる。3)SiNW表面に高密度なアミノ自己組織化高分子膜を形成した後、検出目標の生体分子を認識する抗原をSiNW表面に固定する。4)非特異結合をブロックした後、特異的な生体分子溶液をセンサの表面に導入し、センサの検出感度、特異性、再現性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で東京大学への出張と装置利用が少なくなったため、当初予定していた旅費よび装置利用料を使用しなかった。また、英語論文についての校正費と掲載料は今年度末までに投稿準備が完了しなかったため、計上しなかった。 次年度の使用計画は、前述のようにサブ10 nm幅およびアスペクト比1のSiNWセンサ作製、センサ感度を評価するための生体分子試薬の購入、装置利用料と旅費を支出する。また、研究の推進により得た研究成果を学会発表、論文発表を通して発信するため、学会参加費、旅費、論文校閲費および掲載料を支出する予定である。
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