手術支援ロボットは、低侵襲性に優れ患者の早期回復が可能なため、国内外で広く普及している。ロボット手術は、主に患者体内に挿入したロボット(スレーブ)を医師が内視鏡の映像を見ながら、手元のコントローラ(マスタ)で操作して手術するマスタ・スレーブ方式で行われる。ロボットは医師の目と手の代わりに機能しているが、手術では体内の内部構造が事前にわかりにくく、複雑でロボットの動きに制限があるため、ロボットの構造は人間の身体と異なる場合が多い。このような人間の身体とは異なる形態・構造による性質は「身体性の違い」と呼ばれる。例として、術具の軌道が冗長または窮屈になったり、可動域限界で身体に余計な力が生じたりして、手術の正確性や医師の身体的・認知的負担に影響する。「身体性の違い」は、ロボットの各関節の剛性やポートの位置によって大きく変化する。そのため、身体と異なる構造であっても、直感的に操作できるようにロボットを制御する必要がある。 申請者はこれまで医師のモーションや脳活動などを解析して、直感的に操作可能な手術支援ロボットを研究してきた。その結果、操作者の体格差や勘と経験などのスキルの違いによって、手術精度や医師の関節エネルギー(身体的負担)、脳活動(認知的負担)などが大きく変化した。従来研究でも、医師の関節エネルギーや手術精度のバラツキは報告されているが、それらのバラツキに適したロボットの制御手法は確立されていない。人間の生体情報には試行毎・個人毎にバラツキが生じるため、誰の身体性にどのように合わせてロボットの制御を最適化すれば良いのかが定まりにくいという核心的な問題がある。 当該年度では、手術シミュレーションを用いた基礎的な検討を実施し、どのようなロボットの機構で操作軌道がどのように変化するのかを明らかにし、最適な機構を明確化した。
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