研究課題/領域番号 |
21K18079
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松尾 和哉 神戸大学, 医学研究科, 医学研究員 (90900168)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 頭部外傷 / 機械学習 / 転帰予測 / 重症度 / 入院期間 |
研究実績の概要 |
まず、初年度に作製した頭部外傷後の転帰3分類予測モデルについてを論文で報告し、特許出願した。この転帰予測モデルは治療方針に影響するため医療機器に該当すると認定された。そのため、実臨床で使用するには医療機器製造・販売資格を有する企業との提携が必須であると判明した。特許出願は、企業提携を目指すための一助となり、意義がある。この報告したモデルは、初療時に得られる臨床因子21個を用いて転帰を予測し、その予測性能は感度69.5%、正答率82.5%、AUROC 0.901と高いAUROC値を達成したが、感度は十分な値ではなく、以下の課題が明らかとなった。 1) 死亡の予測性能が低い、2) 中長期の転帰予測が困難、3) 予測する転帰はより細分化した分類の方が実臨床では有用、4) ほかの重要な予後因子を学習できていない、5) 基礎疾患の予測への反映が困難、6) 治療方針が異なるほかの施設でも応用可能か不明。 上記の解決のためには臨床データの追加収集が必要と考え、次世代医療基盤法に基づく医療ビッグデータを利用するための調整をしている。並行して、より細分化した転帰予測モデルの実現にむけ、転帰4分類予測モデルを作成した。このモデルはGlasgow outcome scaleに基づき転帰良好、高度障害、植物状態、死亡の4分類転帰予測を、感度47.1%、陽性的中率51.4%、正答率72.4%、AUROC 0.886で行った。しかし特に植物状態の予測は困難で、それを反映し予測感度、陽性的中率ともに不十分であった。 また中長期の転帰予測については、まず予備実験として入院期間を予測するモデルを作製した。しかし現状ではその性能は決定係数R2が0.32, mean absolute errorが12.2日と不十分であり、改善策を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当該年度中には頭部外傷の転帰予測モデルの有用性を明らかにするための臨床試験を行う予定であったが、未実施である。前年度に作製した転帰予測モデルが医療機器該当と認定されたため、臨床利用のためには医療機器承認試験を経た承認が必要である。そのための企業との提携がいまだ困難であり、試験実施の準備に時間を要しているため、研究は予定より遅れている。 また、当初、予測モデルへの導入を予定していた血中バイオマーカーであるGFAPやUCH-L1については、すでに頭部外傷の転帰予測マーカーとして特許取得がなされていた。そのため、医療機器としての製造販売を前提とせざるを得ない本モデルへの導入には、特許範囲を慎重に検討する必要や、同企業との提携が必要であることが判明した。この調整にも時間を要し、研究実施予定から遅れている。 さらに、CT画像の元データを収集して画像解析を行い、特徴量抽出と転帰予測への応用を計画しているが、DICOMデータの収集に際しては完全な匿名化の手法が確立されていないことも明らかとなったため、適切な画像データの収集方法をいまだ模索中の段階である。そのため当初の計画から遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
研究中の転帰予測モデルの実臨床における有効性を実証するため、まずは医療機器としての承認を受けるべく、製造・販売を前提とした企業との共同研究に向けた準備を行っており、継続する。 より有効な臨床応用に向けて、細分化した転帰予測モデルについての研究もすすめている。予測対象を細分化するほど予測性能が低下することがこれまでの実験で確認されているため、予測性能の向上に向けた実験をすすめている。具体的には、疑似データ拡張、新たな特徴量の作成、機械学習アルゴリズムの改良、学会のデータベースの有効利用、などを段階的に進めており、継続する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の通り、計画していた血中バイオマーカー研究を実施できていないため、ELISA kitをまだ購入していない。そのため、次年度使用額が生じた。しかし、機械学習モデル研究の効率化と迅速化のために、高速コンピューティングインスタンスであるAmazon SageMakerも適宜利用しており、次年度も使用を予定している。そのため、次年度の使用額は想定より増額する見込みである。
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