2022年度では,2021年度に特定した遠隔血糖値計測に適した波長域である近赤外帯域に基づく遠隔血糖値推定モデリングを実施した。近赤外帯域は生体組織に対する光の深達度が高いことが知られているが,中でも波長が700~1000nmの帯域は第I近赤外光学窓,波長が1000~1400nmの帯域は第II近赤外光学窓と呼ばれている。第II近赤外光学窓の方が第I近赤外光学窓に比べ光の深達度が高いことが知られているが,2021年度では第II近赤外光学窓の波長域を含めずに遠隔血糖値計測に適した波長帯域の探索を実施していた。2022年度では第I・第II近赤外光学窓で計測した顔面近赤外画像の空間特徴量に基づく遠隔血糖値推定モデリングを実施した。 具体的な研究方法について説明する。はじめに意図的に血糖値を変動させた状態で顔面近赤外画像と参照血糖値を計測する実験を実施した。ブドウ糖液服用後の被験者の顔面近赤外画像と参照血糖値を5分ごとに計測した。顔面近赤外画像の計測の際,被験者に発光波長が760-1100nm,1050~1650nmの2つの光源の光を顔面に照射し,顔面皮膚で散乱した光をSiカメラおよびInGaAsカメラで計測した。顔面近赤外画像に対し独立成分分析を適用して得た空間特徴量の重み時系列を説明変数,参照血糖値の時系列を目的変数としたモデリングを実施した。 結果,第I近赤外光学窓で計測した顔面近赤外画像の空間特徴量に基づく血糖値推定精度の方が高かった。第II近赤外光学窓の方が第I近赤外光学窓に比べ光の水への吸収率も高くなることも知られている。その波長域における散乱光の多くが水に吸収され,カメラで捉えた散乱光量が少なくなったことで,第II近赤外光学窓での血糖値推定精度が低下したと考えられる。 以上より,近赤外帯域の第I近赤外光学窓が遠隔血糖値計測に適した波長域であることが示唆された。
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