研究課題/領域番号 |
21K18138
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研究機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
研究代表者 |
幕内 充 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 研究室長 (70334232)
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研究分担者 |
依光 美幸 東京都立駒込病院(臨床研究室), リハビリテーション科, 主事 (30836721)
広瀬 友紀 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50322095)
林 美里 中部学院大学, 教育学部, 准教授 (50444493)
関 義正 愛知大学, 文学部, 教授 (50575123)
新国 佳祐 新潟青陵大学, 福祉心理学部, 助教 (60770500)
香田 啓貴 京都大学, 霊長類研究所, 特定准教授 (70418763)
牛谷 智一 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 准教授 (20400806)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 描画 / 霊長類 / ヒト / チンパンジー / サル / fMRI / 小児 / 脳損傷 |
研究実績の概要 |
ヒトを対象とした描画課題中の眼球運動計測実験の予備実験およびデータ解析を行った。 日本語成人話者、およびタイ語話者の子供と成人を対象に描画の階層を評価するための書き順・描画におけるクラスタ分析をすすめ、中間報告としての学会・論文発表を行った。脳損傷患者の描画における階層構造を探索するため、神経心理学検査のRey-Osterrieth複雑図形など描画課題を脳腫瘍患者に実施し、描画の特徴と認知機能の関連を分析した。 チンパンジーに関しては、国際共同研究として、AIのディープラーニングを用いて野生チンパンジーのビデオを自動で解析し、ナッツ割りという道具使用および板根を叩くディスプレイ(誇示行動)という2種類の行動パターンを、音声と画像の組み合わせから自動検出する論文を公表した。その他、和文で霊長類の進化や発達についての総説を執筆した。また、わらべうたに関する書籍において、進化心理学の観点からの考察をおこなった。ヒトを含む霊長類に関する国際学術誌Primatesに、言語進化にかんする特集企画の論文を投稿し、査読・改稿中である。ヒトの子どもとチンパンジーをはじめとした大型類人猿における物の操作行動の発達と、物と物とを組み合わせる定位操作からみた認知発達の種間比較と、野生での道具使用について考察する内容となっている。ニホンザル4頭に対して線分分割記憶再現課題を実施し,線分分割をする際の記憶や運動操作の特徴について分析した。ハトが線分の中点を認識できるか検討した。画面のランダムな位置に,水平から20度以内のランダムな傾きで出現した線分に1回反応すると,ハトは餌報酬を得ることができた。線分以外の箇所への反応が減少した時点で,より線分の中央に反応しなければ報酬を得られないようにした。ハトが報酬を得るまでのつつき回数は低下したことから,より中央に反応することを学習したことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本語とタイ語それぞれを母語とする子供と成人の描画データと、言語の階層構造の理解データを比較することを目標としているが、新型コロナウイルス感染拡大のため対面実験でのデータ収集が滞っているため既存のデータの分析と成果発表を中心にすすめた。 描画課題中の眼球運動データの解析手法の検討を進めた。具体的には、視線データと描画データ(描き順等)を照らし合わせながら、描画対象(見本)への視線運動が、描画に先立ってどのように行われるかを分析するための手法を考案し、当該分析を実施するための解析プログラムを作成した。 fMRIで描画時の脳活動を計測するための装置を整備した。 脳損傷患者は、Rey-Osterrieth複雑図形の骨格ユニットで誤りがみられた。脳の損傷が線分の傾き知覚や全体像の知覚に影響している可能性が示唆された。脳画像データを元に脳損傷の部位を同定し、他の描画検査の誤り方と照合分析する。新型コロナの影響により、当初は年度内に実施を予定していた、京都市動物園におけるチンパンジーとゴリラを対象とした研究について、打ち合わせと準備をおこなった。京都市動物園では、チンパンジーとゴリラの飼育施設に、タッチパネルを用いた認知課題を実施可能な設備がある。現状でおこなわれている数字の昇順タッチ課題等の合間に、画面上に提示された顔の線画へのタッチをする新たな課題を導入する予定である。また、すでに京都市動物園のチンパンジーを対象として実用化された、半透明スクリーンへの映像提示と、近接センサーを組み合わせることで、展示ガラス越しの画像提示をおこなうシステムについて、チンパンジー・ゴリラを対象として適用する予定である。ニホンザルでは,線分分割課題においては,線分の中点といった空間表象を利用するような傾向があるとは言えなかった。ハトでは現在,反応して報酬を得られる範囲を縮小しつつ,訓練を継続中である。
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今後の研究の推進方策 |
滞っている日本語の3から5歳児の描画・文理解(視線計測)実験を再開させ、すでに準備の完了している実験刺激を用いて言語間・年齢グループ間の比較分析をすすめる。 描画課題中の眼球運動計測実験を本実験へと移行し、予備実験データの解析によって考案された手法を用いてデータの解析を実施する。 健常成人を対象としたfMRIで線分による構成、物体、線分の中点ポインティング等、描画時の脳活動を計測する。脳損傷患者に対してはRey複雑図形の描画成績と病巣の関係を統計的に検討する。描画評価は、神経心理学検査としての簡易に認知機能を評価できる反面、いずれも採点基準が簡素で曖昧である。単なるスクリーニングにとどまらず、描画検査から認知機能を診断できる新しい採点基準を構築する。 タッチパネル課題とガラス越しの画像提示の2種類の課題を、京都市動物園・日本モンキーセンター双方で、チンパンジー・ゴリラを対象として実施することで、それぞれの種において、異なる年齢・集団構成による描画課題や画像への反応について、データを収集する。また、比較可能な形でヒトの子どもを対象とした研究に向けての準備を進める。他霊長類種としてのチンパンジーでの実施,並びにヒトの成人・幼児での比較を行い,こうした分割課題の方略の違いについての系統発生・個体発生について検討を進める。ハトでは訓練を継続する中で,報酬の与えられる反応の範囲をより中央付近に限定していくことで,試行の最初からハトが中央に反応できるようになるか,また,どこまでその範囲を狭められるか検討することで,ハトが中点を認識できるか調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によりヒトを対象にする実験は進めるのが難しかった。今年度はヒトを対象にする実験を進めていく。
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