研究課題/領域番号 |
21K18139
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
苧阪 満里子 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所脳情報通信融合研究センター, 主任研究員 (70144300)
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研究分担者 |
山井 弥生 (斉藤弥生) 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (40263347)
吉村 貴子 京都先端科学大学, 健康医療学部, 教授 (40454673)
大沢 愛子 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 病院, 医長 (10388944)
山口 宰 大阪大学, 人間科学研究科, 特任准教授 (10756901)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | ワーキングメモリ / 加齢 / ワーキングメモリ評価法 / 脳内ネットワーク / 動的均衡 |
研究実績の概要 |
本研究では、高齢者の認知症を引き起こす重大な原因となるワーキングメモリ(working memory)に着目して、ワーキングメモリを健常に維持することにより、健康な脳を維持し豊かな社会生活を可能とすることを目指す。 行動の目標のための記憶であるワーキングメモリは加齢とともにその働きが低下するが、その機能を維持するにはその脳内ネットワーク(ワーキングメモリネットワーク、WMN)と安静時ネットワークの中心となるディフォルトモードネットワーク(DMN)とが相互に協調と競合を展開する必要があると考えられる。 本研究では、二重課題法に基づく高齢者のワーキングメモリの評価法(リーディングスパンテスト)を基に、高齢者のワーキングメモリの評価を行う。それに加えて、高齢者の日常行動の障害の有無等との関連を調べ、高齢者のワーキングメモリの機能低下がもたらす行動の特徴をまず明らかにする。そうした行動の特徴とともに、脳のfMRI等の測定結果に基づき、WMNとDMNの相互作用が高齢者のワーキングメモリにどのように影響しているのかを明らかにすることを目指している。 こうした脳の知見に基づき、研究分担者の協力を得て、日常生活に不便を感じる高齢者や、物忘れ外来を受診する人たち、介護施設に入所する人たちのワーキングメモリの評価とその特徴を明らかにすることを目指している。さらには、脳の上記二つのネットワークの相互作用を健常化する方法を見出し、高齢者に負担なく取り組めるワーキングメモリの強化法の開発を目指す。 そして、ワーキングメモリの脳内ネットワークと安静時ネットワークの動的均衡に基づく機能維持と強化法を探索し、認知症改善を試み、さらに介護場面へと適用することを目標とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスのため、高齢者を対象とする実験が困難になり、計画がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、高齢者の認知症を引き起こすワーキングメモリの脳内ネットワークと、安静時に増強する安静時ネットワークの相互作用を増幅させ平衡を保つことで、高齢者のワーキングメモリの健全な維持と強化を目標とする。 研究代表者の苧阪は、WMNとDMNの脳内ネットワークの相互関係に関して研究を進める。また、安静時ネットワークの増強のために、脳波のα波を指標としてニューロフィードバック強化することにより、安静時ネットワークを調整してワーキングメモリを健常化する試みも計画している。ワーキングメモリネットワークと安静時ネットワークの、両ネットワークの平衡を計るという試みを目指す。 研究分担者の吉村と大沢は、軽度ではあるが日常生活に困難を感じる高齢者、軽度認知症および認知症者を対象として、ワーキングメモリ評価と行動特徴の取得を行い、ワーキングメモリの評価による日常生活の自立度の推定を可能とする。この評価法を用いて早期認知症診断法を可能とすることを計画する。さらに、ワーキングメモリ機能低下を回復させる方法を試みて、その適用可能性を探索する。 斉藤は山口とともに、介護施設において介護を必要とする高齢者、認知症者に対して、子供型のヒューマノイドロボットを導入して、他者とのかかわりを引きだし、笑いを引き起こす試みを計画する。こうした試みにより、脳の安静を引き出し、安静時ネットワークのバランスを調整する試みを計画している。 実験参加者に対しては、「実験内容」等について丁寧に説明することとしている。参加者が認知症患者の場合や本人への意思確認が難しいときは、家族や施設職員など、代行権限をもつ関係者にも同意を得ることとする。また、実験参加者の個人情報の保護のために、個人情報の取り扱いには十分に留意することとする。取得データは、本研究専用のPCに保持することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
【研究代表者:苧阪】<理由>新型コロナ禍により、高齢者を対象とする調査や、対面場面を必要とするテストや実験の実施が困難となったため。<使用計画>研究を推進するための主な使途として、研究補助者雇用、実験室レンタル、また人材派遣会社を通じての実験参加者(高齢者)の募集、などを計画している。【研究分担者:吉村】<理由>論文執筆において検討する部分が生じたため。<使用計画>研究に係る物品購入、成果発表や実験実施に係る旅費、また実験実施のための人件費・謝金を計画している。【研究分担者:大沢】<理由>昨年度は対象患者の抽出を主に実施し、本年度以降、本格的なデータ収集や解析を実施予定のため。<使用計画>データ蓄積と解析のためのPC、解析ソフトなどの購入、学会発表などを計画している。【研究分担者:斉藤】<理由>新型コロナウイルス感染症のため、高齢者を対象とする面接と実験ができなかったため。<使用計画>研究に係る物品購入、成果発表に係る旅費、また調査実施のための人件費・謝金を計画している。【研究分担者:山口】<理由>フィールドの高齢者施設において新型コロナウイルス感染症クラスターが発生し、実験が実施できなかったため。<使用計画>主に、研究に係る物品購入および調査実施のための人件費を計画している。
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備考 |
テキスト:山口 宰「認知症の予防と対応」(一般社団法人日本認知リフレーミング協会, 日本認知リフレーミング士基礎テキスト, 総論11)
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