研究課題
宇宙は活動的な現象に満ちており、X線を使った宇宙観測は活動的宇宙の解明に大きく貢献してきた。その中で、X線望遠鏡を用いた撮像観測は大きな役割を果たしてきた。しかし、X線望遠鏡、特に硬X線望遠鏡の製作は難しく、大面積での高角度分解能化は、いまだ、道半ばというのが現状である。本研究では、NuSTARの角度分解能を超えた過去最高の反射鏡を作成すること(ステップ1)、さらには、その上を行く10秒角の結像性能をもった望遠鏡の製作に挑戦すること(ステップ2)である。本研究による高角度分解能硬X線望遠鏡製作技術の確立は、硬X線撮像観測を通して高エネルギー宇宙への窓を開くものとなる。令和4年度は、ステップ1から2への移行として、表面形状劣化の原因の1つである異物混入に関する研究を行った。目視では一見綺麗に見えるガラス表面も顕微鏡で観察すると数ミクロン以下の異物が付着しており、これがガラス接着時のガラス表面凹凸の原因となる。実際、CFRP表面の非接触形状測定器による詳細測定でも数ミクロン以下の凹みがCFRPミラー表面に複数見られていた。ガラス表面の洗浄を工夫することで、異物の量を減少できることがわかってきたことから、CFRPミラー表面の凹みも減少できるものと考えている。一方、ステップ2では超精密金型を使用してのCFRP成形が鍵となる。今年度前半に試作した金型1号機を使ったCFRP加工業者による試験加工を始めるとともに、今年度後半から1号機の経験をいかした2号機の加工を進めた。令和5年4月の時点で、加工形状と測定形状とのずれが1μm以下(PV)であることを確認した。まだ、加工機に対して改良の余地があり、さらなる改善を進めている。
2: おおむね順調に進展している
今年度の計画ではステップ1ではミラー全面で60秒角以下を実現することが目標であった。当初、CFRP基板にガラスを貼り付けるときの条件(圧着の圧力、温度、時間など)を調整することで改善可能だと考えたが、調査した範囲で最善の条件を見つけることができなかった。ステップ2の高角度分解能化には表面の凹みを減少させることが近道と考え、この改善を行う方向に舵を切ることとした。表面の凹みの原因については目星がついてきており、その対策についての検討が進んできている。一方、ステップ2を実現させるためには、X線望遠鏡金型の超精密加工が鍵となる。この加工を実施するために、分担者の鈴木教授と共同で中部大学所有の超精密加工機を用いて加工を実施した。我々は、金型を2台(1号機、2号機)製作することとしており、1号機の加工を令和4年度前半に着手した。加工機の不具合等により十分な加工精度に到達できなかったが、この金型を用いたCFRP成形技術の早期確立が研究を進める上で重要であると判断し、この金型を用いたCFRP成形試作をCFRP業者に依頼した。年度後半からは2号機の加工に向けた準備を進め、加工機の不具合等により加工スケジュールは遅れたものの、令和5年4月に1週間加工したところ、加工形状(加工機にプログラミングした形状)と非接触測定器による形状との差が1μm以下(PV)であることを確認した。目標精度(σ~0.1μm)まで、後、少しのところに到達している。
ステップ1と2を実現するには、ガラス表面の凹みを解消する必要がある。この凹みを解消するには、超薄板ガラスや金型表面の洗浄が鍵であると考えており、まずは洗浄法の確立を目指す。次に、この方法を用いて1気圧による加圧下での超薄板ガラスの接着をCFRP平板を用いて行う。ここで凹みの減少を確認したのち、ウォルター型CFRP基板に適用する。CFRP基板成形は、CFRP加工専門業者と共同で開発を行なっており、両者で技術情報の交換を行いながら進めていく。 また、ステップ2での金型の超精密加工は、分担者である鈴木氏が担当する。現在、2号機を用いて、目標精度に向けた加工法の調整を行なっている段階であり、引き続き実施していく。2号機で目標精度を実現したのち、CFRP加工業者に送付し、CFRP成形を行う予定である。また、1号機の加工精度が低いことから、2号機での経験をもとに再加工を実施する。再加工した1号機は愛媛大学に送付し、愛媛大学にてCFRP成形を進めていく。
超精密加工金型1号機を用いたCFRP成形品の納品が翌年度となったこと、ならびに、超精密加工機の不具合対応や消耗品購入に充てる予算を確保する必要性があることが判明したため、翌年度にその分の経費を確保することとした。
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Proceedings of the SPIE
巻: 12181 ページ: 121814R
10.1117/12.2629705