研究課題/領域番号 |
21K18154
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小松 一生 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50541942)
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研究分担者 |
入舩 徹男 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 教授 (80193704)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2027-03-31
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キーワード | 氷 / 高温高圧 / 中性子回折 |
研究実績の概要 |
本研究3年目となる2023年度は、1,2年目とは異なり、より精密な構造解析を可能にするためのR&Dに注力した。具体的には、新たに開発されたラジアルコリメータにより、従来よりも寄生散乱であるダイヤモンドからの散乱を大幅にカットすることに成功し、約70 GPaまで高いシグナル/バックグラウンド比を持った氷の中性子回折パターンを得ることに成功した。さらに、得られた中性子回折パターンを解析する際、アンビルによる中性子の減弱をセル後方においたモニターによって測定することで、どの程度の中性子が実際に試料に入射しているか、定量化する方法を確立した。 これらの技術開発によって、これまで高精度には得られなかった(重)水素原子の原子変位パラメータを得ることができ、1,2年目までに得られていた構造解析の結果と合わせて、氷VII中の水素の位置分布の詳細について議論することができた。詳細な解析の結果、氷VII中の水素結合は約80 GPaで対称化することが明らかになった。また80 GPaでは回折ピークのピーク幅の減少という予想外の現象も観察されたが、これは水素結合の対称化が格子歪の緩和をもたらしていることを示唆している。本研究により、長年未解決であった氷の水素結合の対称化圧力について、直接的な制約を与えることができたことは、氷の物理化学の分野ではインパクトの大きな成果であり、本研究の目的の一つを達成することができたと言える(Komatsu+, Nat. Commun., in press)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の最終目的である氷の超イオン相の構造解析に向けた高温高圧下における中性子回折実験のための圧力セルの開発にやや時間がかかっている。しかし、2023年度までの3年間で、超高圧下にある試料からの中性子回折実験の成功と、詳細な結晶構造解析のノウハウは確立できたため、着実に研究は進行できているといえる。また、2024年度前半には開発にも目途がつく予定であり、2024年度後半より、J-PARCでの中性子回折実験を予定している。 海外の情勢不安の状況が2024年度も解消されておらず、海外渡航のコストが高止まりしていること、また物価高の影響により、圧力セル開発の予算が圧迫されていることが懸念材料である。さらに、当初の予定では2023年度以降ヨーロッパの中性子実験施設ESSにおいて超高圧中性子回折実験を行う予定であったが、ESSの1st beamは2025年度以降と大幅に遅延しており、本研究期間内に実験ができる可能性が極めて小さくなった。当初予定していたような高温高圧実験は困難にはなった一方で、ヨーロッパの研究者らとフランスの中性子実験施設ILLにて高圧下における氷の中性子回折実験を行う予定であり、国際的な共同研究は継続する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究も6年の研究機関のうちの半分が終了し、今後は、当初の最終目的であった氷の超イオン相の構造解析に向けて研究を本格化していくことになる。具体的には、2024年の前半に高温発生のためのセラミックヒーターの開発とナノ多結晶ダイヤモンドアンビルセルへの実装を行い、2024年後半には、本装置を用いた高温高圧下中性子回折実験の実証を行う。 また、効率的に中性子回折実験を実施するため、実験室レベルでの高温高圧X線回折および放射光実験施設におけるX線回折実験を進める。X線回折では、超イオン相の粒径に関する知見を得ることを目的とする。高温高圧下では、理想的な粉末回折パターン(微小な粒径かつランダムな方位を持つ多結晶からの回折パターン)が得られないことが多いが、超イオン相におけるデバイリングの均質性を評価する。実験室系では、圧力が10 GPaに限定されてしまうものの、比較的低い圧力で観察されることが予想されているプラスチック氷が観察できる可能性があり、その探査を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2024年度に研究成果を論文として公表できる見込みが立ち、その論文掲載料が円安の影響で高額になることが予想されたため、次年度に繰り越すこととした。
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