研究課題/領域番号 |
21K18155
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
境 毅 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 准教授 (90451616)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2026-03-31
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キーワード | コニカルサポート型2段式ダイヤモンドアンビルセル / トロイダル型ダイヤモンドアンビルセル / 高荷重 / 高圧発生技術 / 高圧物質科学 / 惑星深部科学 |
研究実績の概要 |
本研究では、コニカルサポート型2段式ダイヤモンドアンビルセル(cs-ds-DAC)やトロイダル型ダイヤモンドアンビルセル(t-DAC)といった新しい高圧発生技術の開発を通して、極高圧物質科学・巨大惑星深部科学の開拓を行うことを目的としている。 令和4年度は、t-DACにおいては①より小さい先端径での実験、②平坦部の縮小、ds-DACにおいては③2段目アンビルの大型化、またこれら2つの技術を融合した④ds-t-DACの試作を行った。 ①では、アンビル先端径を7 umまで縮小し、凸部ベベル角度を6.0度と9.9度の2種類を試した。後者は前者に比べて高い加圧効率と、先端部でのより急勾配な圧力分布となったが、従来の実験と比較した場合に圧力発生効率に大きな違いは見られず、発生圧力も385~402 GPaとなり大きな改善は見られなかった。 ②では、凸部を支える平坦部サイズを従来のφ80-90 um程度から半分の40 umにまで縮小した。この場合、凸部高さが3 umの場合は圧力集中が過剰で早期に破壊してしまうが、2.2 umの場合に従来と同程度の加圧効率となることを確認した。 ③では、ds-DACにおいて2段目アンビルサイズをこれまでで最大のφ50 umまで拡張した。結果としては、加圧効率は従来通りであったものの最高発生圧力は260 GPaに留まった。大型化によるサポート面積の増加の効果よりも荷重増加の効果が大きく、その結果1段目の負担が増えた可能性があり、全体の形状を再考する必要がある。 ④では、先端30 umのt-DACに、先端径10 umで全体径22 umの2段目アンビルを配置したds-t-DACを試作した。結果としては加圧効率が悪く、最高発生圧力は200 GPa以下に留まった。空間的制約で2段目がどうしても薄くなってしまうのが問題点でここでも2段目をコニカル型にするなどの対応を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アンビルの先端形状やt-DACとds-DACの技術融合など様々な試験を行っているが、本研究課題の究極目標である500 GPaの発生にはまだ到達できていない。また金やクリプトンのような柔らかい試料では加圧過程におけるアンビル先端中央部からの漏出が問題となっており、適切なマイクロガスケット材およびその形状を検討する必要がでてきた。ただ、ds-DAC実験でのガス試料の充填という点では初めて成功しており一歩前進したといえる。また昨年度に設計・開発した高荷重対応のメンブレン加圧式ダイヤモンドセルを使用開始し、設計通り高効率での加圧が可能であることが確認できた。なお、共同研究としてはt-DACのX線非弾性散乱実験への提供、ds-DACのX線吸収分光実験への提供を行った。 一方、惑星科学分野への応用として、巨大氷惑星の内部構造の理解のために、C-H-O系のレーザー加熱DAC(LHDAC)による高温高圧実験を行っている。巨大氷惑星の内部ではダイヤモンドが生成されているという報告があるが、本研究では天王星の氷マントル上部相当の条件、すなわち衝撃圧縮実験による先行研究よりもずっと低い温度圧力条件下においてもダイヤモンドが生成することを明らかにした。この実験ではt-DACやds-DACを適用する前段階として比較的低い圧力での実験を行っているが、将来的により高圧=深部に対応した実験に拡張していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きt-DAC, ds-DACの技術開発、特に先端形状の系統的圧力発生試験を継続する。少しずつパラメータを変えつつ試行錯誤することが必要であるため時間がかかるのは想定内ではあるが、現在検討中のパラメータに縛られすぎずに、例えばds-t-DACのような新しい技術の開発や、精密加工技術を活かして先端部を半球状にするなどの新しい発想の実験にもトライしていきたい。 同時に惑星科学的なアプローチとして巨大氷惑星内部やスーパーアースマントル鉱物の結晶構造相転移や物性変化に着目した実験も並行して行う。 X線吸収分光分野の応用としては、コニカルサポート型の2段目アンビルの背面を完全に掘り抜いた形のperforated(穴開き)型についても実験を行い、X線吸収分光測定(XAFS)に使用可能な形でどこまでの圧力発生が可能か、同時にどこまで低エネルギーのX線が使用可能となるかをテストしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内最後の国内の放射光実験が1月末に実施され、またds-DACを用いたX線吸収分光に関する国際共同研究のESRF(グルノーブル、フランス)における実験が年度をまたぐ日程で実施されることになったため、昨今の円安の影響も考慮しつつ旅費を年度末予算として確保するとともに、それらの実験結果を踏まえて次年度(R5年度)の実験に使うアンビル形状の検討を行い、その後アンビル材の発注をした方が実験計画の遂行上効率的であると判断されたため。
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