研究課題/領域番号 |
21K18170
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
渡部 平司 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (90379115)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 炭化珪素 / パワーデバイス / MOS構造 / 界面科学 |
研究実績の概要 |
炭化珪素(SiC)半導体パワーデバイスの研究開発が進み、金属-酸化物-半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)の実用化に至っている。しかし、現在のSiC MOSFETの電界効果移動度はバルク移動度の数%に留まり、材料本来の特性を引き出しているとは言い難い。これは、MOS構造を構成するSiO2/SiC界面に蓄積された電子の大部分が捕獲されてFET動作に寄与しない事に加え、従来のMOS界面科学では説明できない電子散乱が生じる為である。近年の第一原理計算からSiCの伝導帯下端がフローティングステートで構成される事が報告され、SiC MOS界面の本質的な問題として懸念されている。本研究では、従来のMOS界面科学の理解を超えてSiO2/SiC界面の特異性に関する上記の議論に決着を付けると共に、界面設計指針の再構築を目的として、SiC表面の酸化を伴わないMOS構造の実現や、フローティングステートの空間的な揺らぎを観測可能なまでに微細化した極微細デバイスの試作と特性解析を当初の目標に掲げている。 初年度(令和3年度)では、本研究が最終的な目標とする理想SiC MOS界面との比較対象となる現行のNO窒化SiC MOSデバイスの特性評価を通じて、現在の技術水準の把握と問題点を明らかにした。また、SiC表面の酸化を排除したMOS構造形成技術の開発を現在進めており、本研究課題の最終年度では、新技術で作製したSiC MOSデバイスの界面物性解析を進める。一方、微細MOSFETの試作と評価に関しては、電子ビーム露光を用いたデバイス試作を行ったが、ゲート長とゲート幅を数十nmにまでスケーリングしたデバイスでは、MOSゲートの周辺領域を流れる電流成分が実験の障害となる事が明らかとなった。また、初年度と当該年度での備品導入により、最終年度に重点的に実施予定のMOSデバイス評価の為の実験環境が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、昨年度重点的に取り組んだNO窒化SiC MOS界面の評価に関する成果発信を進めた。当該分野を代表する国際会議(International Conference on Silicon Carbide and Related Materials: ICSCRM)を中心に情報を発信した。加えて、国際会議で計2件の招待講演を行った。 SiC基板表面の酸化を伴わないMOS構造形成技術に関する研究では、高密度プラズマ処理でSiC表面の安定化を行った後に、当該表面の酸化が生じない低温条件でSiO2絶縁膜を堆積してMOS構造を形成した。一般に低温での物理蒸着で形成したSiO2膜は絶縁性に乏しいが、新たに提案した酸化剤中での高温熱処理を施すことで、SiO2膜の絶縁性と界面電気特性に優れたSiC MOSデバイスの作製に成功した。一方、SiC半導体の伝導帯端の特異性を反映したナノスケールでのMOS界面物性のゆらぎを高感度検出する為、数十nmスケールのゲート長とゲート幅を有した極微細MOSFETの試作に挑戦した。作製したデバイスは比較的良好なスイッチング性能を示すものの、MOSチャネル周辺部からの電流成分が無視できず、最終目標とするトランジスタ特性の面内揺らぎを検出するには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では、プラズマ安定化SiC表面への絶縁膜堆積技術に加えて、SiC表面の酸化膜成長を完全に排除可能な新規MOS構造形成技術の探索を継続し、これらの新手法で作製したデバイスの界面物性を評価し、SiC MOS界面の特異性を明らかにしたい。前者のMOSデバイスに対しては、界面欠陥密度の導出に加え、ストレス印加に対するデバイスの長期安定性についても評価する。また、既存TEGを用いたMOSFET試作と性能評価を実施し、従来のNO窒化技術とのベンチマークを行う。さらに、温度可変測定等を通じてMOS界面でのキャリア散乱機構についても考察する。その際、絶縁膜堆積前のSiC表面状態とMOS界面物性との関係を詳細に調べ、界面での電子捕獲や散乱機構との相関を明らかにし、素子性能と信頼性に優れたSiC MOSFET実現に向けた界面設計指針を提示したい。後者の新技術探索では、研究計画書に記載した挑戦的なMOS構造形成手法についてもその実現性を継続的に検証し、MOSFET試作にも挑戦したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は、当初予定していた人件費・謝金(データ整理作業他)を使用することなく十分な研究成果を得る事ができた。このために生じた未使用額は、2023年度に計画しているデバイス試作に必要な関連物品購入経費に充てる予定である。
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