研究課題/領域番号 |
21K18195
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
三宮 工 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (60610152)
|
研究分担者 |
石井 あゆみ 帝京科学大学, 生命環境学部, 准教授 (70406833)
秋葉 圭一郎 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主任研究員 (80712538)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
キーワード | 電子顕微鏡 / カソードルミネセンス / 時間相関 |
研究実績の概要 |
蛍光寿命顕微鏡においては、光の回折限界に起因して、分子・原子レベルでの機能が重要となる100nm以下の情報が得られない。最近の超解像法等によって分解能の向上は試みられているものの、数十nmが限界である。本研究では、光子ー光子相関および電子ー光子相関測定という全く新しい計測手法により、蛍光寿命顕微鏡による回折限界を打破する。この手法では、電子プローブの空間分解能で測定可能であり、既存の光による寿命顕微鏡の分解能をはるかにしのぐ。高い空間分解能を生かした透過電子顕微鏡ベースの計測によりナノ構造の同時計測・直接対比も可能となる。 このうち、本年度は光子ー光子相関のマッピングシステムの確立を行った。ナノスケールでの発光寿命マッピングが可能となった。加えて、時間相関曲線からは、励起効率、発光効率のマッピングも可能となっている。この手法を用いて、次世代太陽電池や量子ドットなどの高効率発光半導体として注目されているCsPbBr系の金属ハライドペロブスカイト材料の解析および、レーザーダイオードなどに用いられるInGaN量子井戸の解析に着手した。 また、電子―光子相関計測に必要となる高速電子検出器の開発を行った。現在汎用器で用いられているセリウムドープ・イットリウムシリサイド(YSO:Ce)シンチレータからの信号を、光子計測器を用いて時間相関計測ができるように検出器を新たに作製した。また、YSOシンチレータ以外のシンチレータを取り付けられるようにし、発光寿命の短いプラスティックシンチレータも試している。この検出器を用いた電子―光子相関計測により、光励起した電子を選択的にとらえることに成功している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
光子―光子相関については、マッピングが可能なシステムの開発がすすんでおり、走査透過電子顕微鏡カソードルミネセンス装置は、すでに発光寿命や励起効率、発光効率の空間分布をナノスケールで計測する「顕微鏡」として機能する状態にまで来ている。応用計測としても、共同研究者らとCsPbBr系の金属ハライドペロブスカイトおよび、レーザーダイオードなどに用いられるInGaN量子井戸の解析を始めており、本計測システムが汎用的な測定に使えることが示されている。研究期間が短かったため、これらの成果は学術誌の論文発表にまで到達していないが、学部生、大学院生の卒業論文としてまとめられており、卒業論文発表では、同テーマの学生2名ともが最優秀発表賞を受賞している。これらは当初2年目に計画していた内容も含まれており、計画以上の成果が上がっている。 電子―光子相関については、高速電子検出器がすでに開発できており、当初1~2年かけて開発予定であった部分のプロトタイプがすでに出来上がった現状は計画よりも大幅に前倒しで進んでいる。 また、既に国内出願していた電子―光子相関に関する特許は、海外むけのPCT出願が決まり、知財としても固められた。
|
今後の研究の推進方策 |
計画書にも記載したとおり、以下の内容について研究を実施する。 ・光子―光子相関 マッピングシステムが構築され、応用計測ができるようになってきているので、着手しているCsPbBr系(CPB)金属ハライドペロブスカイトの解析やInGaNの計測をすすめていく。また、相関曲線の定式化を見直し、フィッティングから得られるパラメータの精査を行う。いずれの半導体材料においても、フォトルミネセンス(PL)計測に比べて、カソードルミネセンス(CL)では、発光寿命が非常に短くなっていることがわかっている。これらの原因について解明するとともに、それぞれの材料の発光特性、欠陥や粒界、キャリア拡散との関係を調査する。CPBでは、4:1:6の組成では発光が強いことが知られているが、その原因には諸説あり、本研究のナノスケール発光寿命解析が強力なツールとなることが期待できる。 ・電子―光子相関 高速電子検出器の改良を進める。特にシンチレータの選定、検出効率の改良を行っていく。新たなシンチレータ材料として、半導体の利用も検討する。高速な走査透過電子顕微鏡においては、シンチレータ寿命が高速化のボトルネックとなっており、ここでのシンチレータ開発は電子顕微鏡一般において重要である。既に検出自体は可能となっているので、様々な物質をターゲットとして測定をすすめていく。また、電子―光子相関における検出信号の定式化を行い、得られる信号の解釈、摘出可能なパラメータを検討し、光子―光子相関計測との違いを検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
雇用あるいは謝金支払い予定であった技術員がコロナ禍で来校しての作業が困難となり、その分を物品等で使用したが、若干の繰越額が生じてしまった。次年度に物品等で使用予定である。
|