研究課題/領域番号 |
21K18197
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
向井 剛輝 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (10361867)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 単一光子放出器 / 量子ドット / メタマテリアル / 微小光共振器 / 走査型プローブ顕微鏡リソグラフィ / 局所プラズモン / シリカコーティング / 集束イオンビーム加工 |
研究実績の概要 |
本研究では、光子発生源であるナノ結晶と単一メタマテリアル共振器を人工的な操作によって極めて高精度に位置制御して組み合わせ、ナノオーダーサイズの革新的な極小単一光子放出器を実現することを目的とする。この新しい構成を持つ極小な光量子素子はこれまでには無かったコンパクトな固体光量子回路の設計を可能とするものであり、光マイクロマシン、フォトニック結晶光導波路、シリコンフォトニクスなど他の既存技術との親和性も高いことから、同分野の新たな基盤技術になり得ると考えている。 今年度は、令和4年度に購入予定であった光学消耗部品一式などの物品を前倒しで導入し、単一光子測定のための光学実験系を組み立てた。そのために購入する主要装置がロシア製であり入荷が危ぶまれたが、なんとか期内に納入され、光学実験系の構築を完了することできた。微小な光共振器作製技術の検討においては、従来のSPM(操作型プローブ顕微鏡)描画と選択無電解めっきによって素子を製造する工程を大幅に変更し、より高い再現性や精度を実現できるFIB(集束イオンビーム)加工による製造工程に切り替えることにした。また、この製造方法の変更に伴って、微小共振器を構成する材料が従来のニッケルからプラチナに変更になったため、素子設計の見直しを開始した。一方、光源として用いるQD(量子ドット)の開発も進めた。位置制御に適した高性能なQDとして、コロイド型PbS QDに、表面保護のためのPbSeシェルを付与した上で、シリカコートすることで、量子準位の状態を維持したまま見かけのQDサイズをマイクロオーダーまで大きくする技術を検討した。その結果、シリカコートの前にQD表面を適切にシラン化することが、QDの均一なサイズ拡大に有効であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4つのサブテーマを掲げて、提案した波長1.3ミクロンの単一光子放出器の実現に向けた研究を進めている。 「素子の試作と性能実証」では、コロイド型QDを光源として素子を作製し、素子からの発光を光ファイバーに結合した上で、パーセル効果の確認や、アンチバンチングの確認を行うことを目指す。今年度はそのために必要なSSPDフォトンカウンターを新規に購入した。SSPDはロシア製であり入荷が危ぶまれたが、なんとか期内に納入され、計画を完了することできた。また、それを用いた光学実験系の構築は次年度実施の予定であったが、計画を前倒しで光学消耗部品一式などの物品を導入して、完了した。 「微小な光共振器作製技術」では、素子の厚膜化や高精度化を目指して、微小共振器を形成するための選択無電解めっきの工程の改良や共振器のSPM描画技術のブラッシュアップを行う予定であった。しかしこの方法では再現性や精度に限界があることが分かってきたため、新しくFIB加工による試作にも取り組んだ。その結果、非常に良好な結果を得た。今後は製造方法をFIB加工に切り替えて、研究を進めることとした。 「素子の再設計」では、高性能化のための素子設計の見直しを行う。今期は特に、前項に記載した、SPM加工からFIB加工への製造方法の変更に伴って、材料がこれまでのニッケルからプラチナに変更になったことに対応した、素子サイズの見直しを進めた。 「QDの位置制御技術」では、位置制御に適した高性能なQDとして、3層構造コロイド型QDの製造技術を開拓する。今年度は、PbS QDに表面保護のためのPbSeシェルを付与した上で、シリカコートする検討を進めた。その結果、シリカコートの前にQD表面を適切にシラン化することが、QDの均一なサイズ拡大に有効であることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き4つのサブテーマを掲げて研究を進める。 「素子の試作と性能実証」では、計画を前倒しで構築した光学実験系を使用して測定を開始し、適切な光子検出条件の取得や光放出の指向性・偏光測定などに向けた実験系のブラッシュアップを進める。これによって、次項以降に述べる、再設計し高性能化した素子の試作が成功した後に、速やかに素子性能の評価を実施すべく、十分な準備を進める。 「微小な光共振器作製技術」では、昨年度、製造方法をこれまでのSPM加工からFIB加工へと変更したことに対応して、新たな造形手順の開発や適切な条件設定の確認など、製造技術のブラッシュアップを進める。 「素子の再設計」では、特に光共振器を構成する材料が、これまでのニッケルからプラチナに変更になったことに対応して、製造時のフィジビリティやマージンの詳しいチェックも行い、より製造しやすく、かつ特性が良好な素子製造に寄与する構造条件を探索する。 「QDの位置制御技術」では、単分散性と高量子効率の両立を目指して、QDにPbSeシェルを付与した上で、シリカコーティングする条件の探索を進める。また並行して、QDをトラップするためのナノホール作製技術のブラッシュアップを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の前倒しに伴って前倒し支払い請求を行ったが、前倒しで購入する物品の精査を行なって、当面必要な物品のみを購入した結果、残額が生じた。余剰金は当初の予定通り、次年度の研究実施に必要な物品の購入に充当する。
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