研究課題/領域番号 |
21K18198
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
井上 修一郎 日本大学, 理工学部, 教授 (30307798)
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研究分担者 |
行方 直人 日本大学, 理工学部, 准教授 (20453912)
高田 則雄 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任講師 (50415212)
大貫 進一郎 日本大学, 理工学部, 教授 (80386002)
岸本 誠也 日本大学, 理工学部, 助手 (90843053)
佐甲 徳栄 日本大学, 理工学部, 教授 (60361565)
小林 伸彰 日本大学, 理工学部, 准教授 (50611422)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 時間分解測定 / 量子パルスゲート / 生体断層撮影 / 単一光子検出 / 周波数上方変換 |
研究実績の概要 |
本研究では、生体試料にフェムト秒光パルスを照射し、生体内部からの反射光パルスを時間分解測定することで生体試料の断層撮影を行う。その際、生体内部で1回反射して戻ってきた光パルス(信号光パルス)と同時刻に到来する生体内部で多重反射して戻ってきた光パルス(背景雑音)を量子パルスゲートにより除去する。それには、信号光パルスと同じ波形のポンプ光パルスを生成し、量子パルスゲートに適用する必要があるが、信号光パルスと背景雑音を実験的に分離測定することは不可能である。そこで、生体組織を屈折率の異なる楕円柱でモデル化し、生体組織にパルス幅100fsのガウシアンパルスを入射した場合の時間応答をFDTD法により計算することで、信号光パルスだけを取り出す方法を検討した。FDTDにおける時間更新の際に、実空間中の電磁界分布を2次元フーリエ変換により波数空間に変換し、入射光パルスと反対方向に伝搬する光を波数空間中の電磁界から抽出し実空間に変換することで、多重反射した光パルスを分離することが可能となった。 一方、パルス幅~80fsのファイバーレーザーの出力から、波長1565nmと1540nmのパルス幅~500fs の光パルスを4fフィルタリングにより切り出し、それぞれ生体試料のプローブ光パルスと量子パルスゲートのポンプ光パルスとした。生体試料にはマウス固定脳を用いた。生体試料に波長1565nmの光パルスを照射し、反射光パルスとポンプ光パルスの時間遅延を変えながら反射光パルスを波長775.5nmに周波数上方変換(SFG)し、シリコン単一光子検出器を用いて光子計数を行った。その結果、マウス固定脳の表皮から約1.5mmの深さまでの断層画像を得ることができた。さらに、SHG用PPLNを用いた量子パルスゲートにおける背景雑音抑圧比を評価するためにSFGにおけるシュミット係数とシュミットモードを数値計算により求めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、①量子パルスゲートによって背景雑音を抑圧するためのポンプ光パルス波形の最適化、②生体試料からの反射光パルスを量子パルスゲートにより時間分解測定するための光学系の構築、③実験結果を評価するための理論の構築、を行わなければならない。 ①に関しては、FDTD 法による光パルスの時間応答解析により、信号光パルスと背景雑音を分離する方法を考案した。この方法をマウス脳の計算モデルに適用することで、ポンプ光パルスの最適化が可能となる。②に関しては、量子パルスゲートによる信号光パルスの時間分解測定系を構築し、マウス固定脳を試料とし、深さ約 1.5 mm までの断層撮影に成功した。③に関しては、量子パルスゲートによる背景雑音抑圧比を評価するための SFG におけるシュミット係数とシュミットモードを数値計算するためのプログラムを開発した。これにより、研究は概ね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
マウス脳の計算機モデルを作製し、マウス脳からの信号光パルス波形をFDTD法を用いたシミュレーションにより詳細に調べる。これにより、量子パルスゲートによる背景雑音抑圧に最適な光パルス波形を決定する。量子パルスゲートによる時間分解測定系に関しては、パルス圧縮により ~ 100 fs のプローブ光パルスとポンプ光パルスを生成し、断層画像の軸方向分解能の改善を図る。また、パルス波形整形器を光学系に組み込み、上記のシミュレーションで得られた信号光パルス波形と一致したポンプ光パルスを生成し、量子パルスゲートによる断層画像の S/N 比の改善を実証する。さらに、実験条件下での量子パルスゲートのシュミット係数とシュミットモードを求め、背景雑音抑圧限界について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の11月にパルス波形整形器の納期について業者に問い合わせたところ、「コロナ禍のため、年度内納入は難しい」との回答を得た。そこで、パルス波形整形器は次年度購入とした。次年度使用額は全額、パルス波形整形器の購入費用に充てる。次年度分として請求した経費は、ポスドクの人件費と物品購入に充てる予定である。
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