研究課題/領域番号 |
21K18209
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
瀧宮 和男 東北大学, 理学研究科, 教授 (40263735)
|
研究分担者 |
Bulgarevich Kirill 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (60880268)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
|
キーワード | 有機半導体 / ボロン酸エステル / キャリア密度 / 分子集合体 / キャリアドープ |
研究実績の概要 |
本研究は、凝集誘起自発ドープ現象の一般性の確認(合成研究と物性・構造評価)、学理探求(物性・構造研究、理論計算)、及び、デバイス応用合成研究、の3フェーズを想定し、研究を計画しており、今年度は、凝集誘起自発ドープ現象の一般性の確認と学理探求を中心に研究を進めた。凝集誘起自発ドープ現象の発見の契機となったボロン酸ピナコールエステル(Bpin)基を持つジナフトチエノチオフェン(Bpin-DNTT)と類似した半導体骨格(ベンゾチエノベンゾチオフェン(BTBT)、ベンゾチエノナフトチオフェン(BNTT))を持つ化合物、また、代表的な縮合多環芳香族であるアントラセン(ANT)、テトラセン(TETRA)、ピレン(PY)、ペリレン(PERI)にBpin基を導入した一連の化合物を合成した。このうち、Bpin-BNTTでは、薄膜化によりIPの上昇を確認できた一方で、他の化合物はサンプル量が不十分なため、薄膜化とIP評価には至っていない。今後、大量合成と精製を早急に行い、凝集誘起自発ドープ現象の一般性を確認する。一方で、本現象発現の解明において鍵を握る構造解析について、Bpin-DNTTの単結晶X線構造解析に成功した。また、物理的蒸気輸送法(PVT法)による薄片状単結晶の成長にも成功し、それを用い単結晶トランジスタを評価した。結晶構造と単結晶トランジスタの挙動から、Bpin-DNTTにおける凝集誘起自発ドープ現象の機構を考察するための重要な知見が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた種々の有機半導体骨格(7種)へのボロン酸エステル基の導入に成功しており、現象論としての一般性を確認するための材料は揃いつつある。一部の化合物については、蒸着による薄膜形成に十分なサンプル量の確保が課題であるが、順次合成を進めていくことを計画している。また、凝集誘起自発ドープ現象の機構解明の鍵となると考えていた、Bpin-DNTTの単結晶構造解析に成功し、特徴的な結晶構造、即ち、嵩高いBpin基を避けるようにface-to-faceで二量化した構造が、herringbone様に充填した構造、いわゆるsandwich herringbone構造をもつことが明らかとなった。一方で、Bpin基は結晶中で乱れが認められたため、今後、低温での測定により構造決定を行い、Bpin基の効果について検証できるようにする。また、Bpin-DNTTの薄膜XRDと単結晶構造解析により得られた構造を基にした予測されるピークパターンとが一致したことから、薄膜中で同様の構造であることも確認された。これは、sandwich herringbone構造をもつ有機半導体としては極めて高い移動度であり、Bpin-DNTTが極めて特異であることを示している。また、PVT法により育成した単結晶上に形成したトランジスタも薄膜と同様に高い移動度を示した。単結晶トランジスタの作製は、大気中で行う必要があることから、必然的に結晶は大気暴露されてしまうため、予想通りノーマリーオン(ドープされた状態)となる一方、ゲート電圧を極端に正側へ掃引することでオフ状態が観測されることも分かった。また、二段階の立ち上がりが認められ、あたかも複数のトランジスタ部が一つの結晶中に存在するような挙動であり、凝集誘起自発ドープ現象の機構を考えるうえで有用な知見が得られている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに合成に成功した化合物のサンプル量確保を進めつつ、薄膜トランジスタにおける挙動、IPの評価、単結晶育成と構造解析など、一般性を確認する実験を進める。特に結晶構造(分子集合体構造)が明らかになっているBpin-DNTTで見られたsandwich herringbone構造の一般性を確認するとともに、Bpin基の配向と凝集誘起自発ドープ現象の相関に関する情報を集積するためにも、結晶化と構造解析に力を入れる。さらに、構造解析に成功した化合物の、分子集合体における電子構造計算を実施し、自発ドープ現象との関連を考察する。また、本年度導入したESR装置を用い、キャリア密度を評価する。 これらと並行して、今年度確認することができたBpin-DNTTの単結晶トランジスタの挙動について再現性の確認と異なる条件下での測定(不活性ガス中、水素などの還元性ガス)を行い、発現機構の解明のための実験を実施する。また、現在確認できている二段階のトランジスタ挙動を合理的に説明できるデバイスモデルを構築することを試みる。 以上の検討から、凝集誘起自発ドープ現象の最も顕著な材料を特定し、そのサンプル量を確保することで、太陽電池のホール輸送層への応用を検討するとともに、電気伝導度とゼーベック係数を測定することで熱電特性の評価も実施する。
|