研究課題/領域番号 |
21K18212
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
入江 寛 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (70334349)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2027-03-31
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キーワード | 水素製造 / 鹹水分解 / 太陽光 / 光触媒 / 赤色光 |
研究実績の概要 |
次世代のエネルギー資源として注目されている水素を、恒久的に地球上に降り注ぐクリーンな太陽光エネルギーを利用して鹹水から製造すべく検討を行っている。地球上に存在するほとんどの水は海水であり、さらに太陽光が強い地域での水の確保は困難であるため、鹹水(代表例は海水、塩化物イオンを含む水)の使用が不可欠と考えられる。そこで本研究では、太陽光の有効利用の観点から可視光全域を利用できる光触媒を用い、かつ海水利用を想定した塩化物イオン共存下で水を完全分解することによって水素、酸素を量論比で発生させ、エネルギーとして水素を獲得できる技術確立を目的に検討を行っている。具体的には、塩化物イオン共存下での水分解では塩化物イオンと水の酸化反応が競争反応となるため、塩化物イオンでなく選択的に水を酸化し酸素を発生させる助触媒の探索、創出を試みている。 令和3年度は酸素発生助触媒として、まずは既往の電気化学評価の知見を用いてルテニウムおよび酸化ルテニウムナノ粒子を合成した。ルテニウム(Ru)ナノ粒子の合成はイオン液体中へのスパッタ法を用いた。このRuナノ粒子を酸素発生光触媒としてのバナジウム酸ビスマス(BiVO4)上へ担持した(Ru/BiVO4)。またRu/BiVO4を850℃で焼成することによりRuを酸化し、RuO2/BiVO4を作製した。犠牲剤(ヨウ素酸イオン)存在下で、塩化物イオンの有無による水の半反応の結果、Ru/BiVO4では塩化物イオン存在下で大きく酸素発生量が低下したが、RuO2/BiVO4では塩化物イオンの有無によらず酸素発生量は変わらなかった。以上によってRuO2は塩化物イオンでなく選択的に水を酸化し酸素を発生させる助触媒であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は酸素発生助触媒として、まずは既往の電気化学評価の知見を用いてルテニウムおよび酸化ルテニウムナノ粒子を合成した。ルテニウム(Ru)ナノ粒子の合成はイオン液体中へのRuスパッタ法を用いた。母体である酸素発生光触媒としてバナジン酸ビスマス(BiVO4)粉末を固相反応法により作製した。Ruナノ粒子をBiVO4粉末上へ含侵、担持した(Ru/BiVO4)。またRu/BiVO4を空気中850℃で焼成することによりRuを酸化し、RuO2/BiVO4を作製した。また、ルテニウムアセチルアセトナートとBiVO4を混合、空気中850℃で焼成することによってRuO2/BiVO4も作製した。ここではBiVO4、Ru/BiVO4、RuO2/BiVO4に対して犠牲剤(ヨウ素酸イオン)存在下で、塩化物イオンの有無による水の半反応の結果として発生する酸素を定量することによって酸素発生活性を評価した。 塩化物イオンなしの場合ではBiVO4からは酸素発生は認められなかったが、Ru/BiVO4からは酸素発生が認められた。しかしながらRu/BiVO4では塩化物イオンを含んだ場合、含まない場合に比べて酸素発生量は5分の1程度に低下した。一方、Ru/BiVO4を空気焼成して作製したRuO2/BiVO4では塩化物イオンの有無によらず酸素発生量は変わらなかった。ルテニウムアセチルアセトナート由来のRuO2/BiVO4では塩化物イオンを含んだ場合、含まない場合に比べて酸素発生量は2分の1程度であった。RuO2は適切な方法によって作製することによって、塩化物イオンでなく選択的に水を酸化し酸素を発生させる助触媒であることを見出した。 以上、ほぼ計画通りに進捗していることから、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度見出した塩化物イオン存在下で水を選択的に酸化できるRuO2/BiVO4を報告者がすでに見出している全固体型二段階励起光触媒(導電層を介して水素発生光触媒と酸素発生光触媒を接合した光触媒)に展開する。すなわち、全固体型二段階励起光触媒を構成する水素発生光触媒としてのロジウム酸亜鉛(ZnRh2O4)とRuO2/BiVO4を導電層としての金(Ag)を介して接合する(RuO2/BiVO4/Au/ZnRh2O4/Au、以下単に金接合型光触媒と記載)。具体的には、AuとZnRh2O4を混合、焼成することによりAu/ZnRh2O4を作製する。その後、RuO2/BiVO4とAu/ZnRh2O4を再び混合、焼成することにより、AuはZnRh2O4のみに担持され、RuO2はBiVO4上のみに担持された目的の金接合型光触媒が作製できると考えられる。このような手法で新たに作製した助触媒担持金接合型光触媒を、塩化物イオン存在下、非存在下で水分解による水素、酸素発生量を測定することにより、鹹水分解評価を行っていく。 ここで用いたBiVO4はバンドギャップ2.4 eV、ZnRh2O4は1.2 eVであるため、BiVO4の光吸収波長に利用波長が制限され、波長515 nmしか応答しない。もうひとつのバナジン酸ビスマスBi4V2O11のバンドギャップは1.7 eVであるため、波長740 nmまで利用可能である。Bi4V2O11にもRuO2を担持し、波長利用の拡大を図りつつ、鹹水の完全分解を目指す。
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