研究課題/領域番号 |
21K18217
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
萩原 大祐 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (20612203)
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研究分担者 |
一木 珠樹 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 遺伝資源研究センター, 上級研究員 (70355501)
高橋 弘喜 千葉大学, 真菌医学研究センター, 准教授 (60548460)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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キーワード | マイコウイルス / FLDS法 / ゲノミクス解析 / 宿主特異性 / 大規模探索 / 糸状菌 / 共進化 |
研究実績の概要 |
本研究では、菌種、菌株数において世界でも類を見ない規模のマイコウイルス探索を実施する。近年の実績も含めると、これまでに40種以上、1000株近くの菌株を対象にウイルス探索を終えた。中でも、病原真菌Aspergillus fumigatusは菌株リソースが充実していることから、単一の菌種でありながら解析済み株が230株に到達した。28株がウイルスに感染していることを明らかにしており、これらのウイルスのうちNarnaviridae科に属するAfuNV2が、分割型のRNA依存的RNA複製酵素(RdRP)を持つことが判明した。また深海から分離されたAspergillus属の菌株を対象とした探索からも、分割タイプのRdRPを保有するウイルス(AtenNV1)を発見した。AfuNV2の分割型RdRPは、タンパク構造上よく保存されたモチーフBとCの間で分割されていたのに対し、今回発見されたAtenNV1のRdRPはモチーフAとBの間で分断されており、異なる分割様式であることを示した。我々はこれをType-II divided RdRPと呼称し、マイコウイルスRdRPの驚くべき多様性を発見した。 ウイルスと宿主の進化的な関係性の理解を目指し、宿主糸状菌及び感染ウイルスの両者を対象とするdual-genomics解析を実施した。具体的には、104株のA. fumigatusのゲノム配列及び、これらの菌株に感染していた8種19株のマイコウイルスのゲノム配列を決定した。系統樹を作成し宿主の系統解析を行うと、宿主の進化系統とウイルス感染イベントは関連が低いことが示唆された。同種ウイルスに着目した場合も、宿主とウイルス間の系統関係に強い相関は見られず、ウイルスと宿主が独立に進化したと推測された。すなわち、進化の過程で異なる宿主菌株間を移動する水平伝播のようなイベントが起こった可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
連携する菌株リソースセンターの協力のもと、探索に使用する多くの糸状菌株を順調に入手できた。これらの菌株の培養においても、総じて困難な状況には遭遇せず、回収した菌体からの核酸抽出、ウイルス検出までの一次スクリーニングを、的確な人員配置により効率的に実施する体制をラボ内に構築することができた。その結果、ウイルス探索を高速で実施し、目標としていた菌株数を達成することができた。また、予想外の奇異なゲノム構造をしたウイルスの発見や、これまでウイルス感染の報告のない糸状菌種でもウイルスを発見するなど、効率的な大規模探索の恩恵による成果が着実に得られている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に構築したウイルス探索の実施体制を維持、活用して、更に大規模な探索を展開する。そのためには、これまでにウイルス探索されていない糸状菌種を洗い出し、リソースセンターからまとまった数の菌株を入手できるか検討する。また自グループでも、環境中から糸状菌を分離するなど、解析対象を拡大する努力を続ける。 探索対象の拡大の一方で、dual-genomics解析から得られる、宿主―ウイルス間の進化的な関係性に関して踏み込んだ解析に挑む。宿主特異性の有無や、もしあればそれを規定するようなゲノム因子等について検討する。また、ウイルスの人工的な脱離や感染を可能とする技術基盤の確立を試みる。この技術を応用して、多様な宿主―ウイルス感染セットの作製を目指していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
技術補佐員の雇用を計画したが、条件の合致する人材を見つけられず採用に至らなかったため、予算残となった。翌年度も引き続き、技術補佐員の雇用を検討しており、前年度の残予算と合わせることで十分な雇用条件の提示が可能になると期待している。技術補佐員の雇用により、多くの実験を実施し研究をさらに発展させる。
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