研究課題/領域番号 |
21K18221
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中園 幹生 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (70282697)
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研究分担者 |
村瀬 潤 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30285241)
藤原 徹 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (80242163)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | イネ / 根圏マイクロバイオーム / イオノーム / ゲノムワイド関連解析 |
研究実績の概要 |
低投入持続型農業を実現するには、少ない施肥でも収量を維持し安定した作物生産が可能となる品種の開発が有望視されており、そのためには少肥栽培時の作物の成長と収量の維持に寄与する遺伝子の単離とその育種利用が重要である。本研究では、イネを材料に用いて、無施肥条件下での成長・収量関連形質と根圏微生物との関係性を解明し、少肥栽培時の成長を支える根圏微生物との共生に関わるイネ遺伝子を同定することで、これらを遺伝子資源として育種利用することを目指す。 令和4年度は、日本の栽培イネ品種 120 系統の多様性に着目し、イオノーム解析を行い、施肥応答に関連のあるイネの元素動態特性の解明を試みた。施肥圃場と無施肥圃場で生育させたイネの葉のイオン含量について分析したところ、施肥の効果が多くの元素で有意な差として検出された。主成分分析の結果、第一主成分に高い寄与率を示した元素は、葉における蓄積量が経時的に変化する元素、すなわち生育初期(栄養成長期)に植物が必要とする元素と、水田土壌の還元化に伴い生育後期にかけて相対的に吸収量が増加していく元素であった。主成分分析の結果より選抜した元素イオンデータを用いて品種の階層的クラスタリングを行ったところ、5つのクラスターに分類することができた。また、イネ120品種の根圏微生物叢データを用いて、上記のクラスターごとに栄養成長期の根圏微生物存在比率を比較したところ、施肥と無施肥の条件間で大きく異なっていた。さらに、分類したクラスターごとに異なる微生物種が高い存在比率を示した。これらの結果より、イネの葉のイオノーム情報が、根圏に共生する微生物叢の情報を反映していることが示唆された。また、前年度のGWAS解析によって同定した地上部形質や根圏微生物の群構造決定に関わる候補責任遺伝子の機能解析をするために、CRISPR/Cas9によるノックアウト系統の作出を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね計画通りに進んでおり、日本の栽培イネ品種120系統の多様性に着目し、イオノーム解析を行い、施肥応答に関連のあるイネの元素動態特性を調査した。施肥と無施肥の違いが多くの元素で有意な差として検出され、選抜した元素イオンデータを用いて品種の階層的クラスタリングを行って分類したところ、5つのクラスターに分けることができた。また、イオノームデータと根圏微生物叢データの比較解析によって、イネの葉のイオノーム情報が、根圏に共生する微生物叢の情報を反映していることが示唆された。イネのノックアウト系統の作出も開始しており、概ね順調に本研究が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は以下の通りである。 GWASにより同定された無施肥区の根圏微生物叢の構成に関与する可能性がある候補遺伝子について、CRISPR/Cas9によるノックアウト系統を作出し、既にT1系統の種子を得ている。このT1系統を、標準栄養条件、貧栄養条件で栽培し、表現型解析を行う。特にこれまでの圃場実験での解析では、根系形態の解析は行なっていないため、ノックアウト系統については根系発達についても詳細に解析を行う予定である。また、根圏微生物叢についても調査することで、今回見出した候補遺伝子が実際に根圏微生物叢に影響を及ぼすかどうかを解析する。さらに、今回同定された遺伝子は遺伝子型の違いで微生物叢を変化させていたが、一部の地上部表現型においてもハプロタイプごとに有意な差があった。興味深いことに、今回の遺伝子は地上部形質のGWASでは同定されなかった。そこで今後、本遺伝子のハプロタイプに着目した圃場試験を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
圃場での計測等の一部を次年度に持ち越したために、それらの解析等に必要な物品費などの費用を次年度使用額に追加した。次年度にこれらの解析を進める予定である。
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