人は“共食い”に対して強い嫌悪感を示す。しかし実際には、共食いは無脊椎動物から脊椎動物まで様々な生物で観察され、進化の観点から理に適った行動と考えられている。オタマジャクシやカマキリの共食い例は有名だが、他にもサメ(シロワニ)、ライオン、ホッキョクグマでも共食いが観察されており、その行動のもつ意味について活発に議論されている。多くの場合、種の繁栄に有利に働くとされており、共食いは生物がもつ生得的行動と捉えられている。しかし、共食いに関する研究の殆どは現象の観察・記載に留まっており、その分子機構については不明な点が多い。研究代表者はこれまで約17年間、ショウジョウバエの嗅覚神経回路の遺伝学的・生理学的研究を行ってきた。この研究過程で偶然にも特定の化学受容変異体の幼虫が“共食い行動”を示すことを見出した。ショウジョウバエ幼虫は、通常の飼育条件で共食いしないため、この表現型は大きな驚きであった。本研究では、この“共食い変異体”を切り口に、共食い行動の分子基盤、特に化学受容による共食い行動制御の分子機構を解明することを目指した。 2021年度は、“共食い変異体”の発生過程を詳細に記載し、共食い行動の特徴を掴むための行動観察を行った。その結果、野生型と“共食い変異体”を同じ条件で一緒の飼育すると、野生型の発生速度が顕著に遅れることが明らかになった。様々な実験結果から、この野生型の発生遅延は、“共食い変異体”からの攻撃による野生型幼虫の傷が原因である可能性が高い。現在、“共食い変異体”の身体でどのような変化が起きているかを知るための条件検討(遺伝子発現解析および感覚神経の活動操作など)を行なっている。
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