本研究では、研究代表者が偶然発見した“共食い行動”を示すショウジョウバエ変異体“共食い変異体”を切り口に、共食い行動の分子基盤、 特に化学受容による共食い行動制御の分子機構を解明することを目指している。 2022年度は、“共食い変異体”の生理状態を解析するためにTAG定量や飢餓ストレス関連遺伝子の発現レベルを解析した。その結果、“共食い変異体”は特に飢餓状態にはなっていないことが明らかになった。ショウジョウバエであっても極度な飢餓状態になると共食いを起こすことが知られているが、“共食い変異体”では飢餓状態にならずに共食いを起こしていることになる。 次に、“共食い変異体”の行動特徴を掴むための幼虫行動トラッキングシステムの確立を目指した。遠赤外線を用いた幼虫イメージングシステムを作製し、幼虫の歩行速度、首振り運動、他個体との摂食頻度などの定量法を検討した。観察フィールドから幼虫が逃げてしまったりと様々なトラブルがあったが、徐々に手法の確立に近づいているところである。さらに、共食い変異体幼虫と野生型幼虫を一緒に飼育した際、野生型幼虫に「傷」が観察されるかの検討を行った。免疫応答遺伝子、傷口で発現する遺伝子などの発現レポーターショウジョウバエを用いて解析を行なった。現状では幼虫行動トラッキングシステムおよびその定量法、傷口遺伝子レポーターを用いた解析法の確立には至っていないが、2023年度初旬にはそれぞれの方法を確立したいと考えている。
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