研究課題
本研究は、ゲノム編集技術とヒトiPS細胞やオルガノイドを用いた細胞分化誘導系を利用して、特定遺伝子のヒトモデルでの表現型解析系の開発を行うことを目的とする。遺伝子組換えマウスの普及は、個々の遺伝子の機能解明研究に“最終的な答え”を提供し、生命科学研究に決定的な貢献をしてきた。しかしながら、遺伝子組換えマウスを用いた研究成果がヒトに外挿できないことも多く、『種差』の問題があった。そこで本研究では、創薬応用の観点からも重要な組織である肝臓と腸管に焦点をあて、ヒト肝発生や肝幹前駆細胞から肝細胞/胆管上皮細胞への分化選別、ヒト腸管幹細胞から腸管上皮細胞への分化過程に関与する各種分子の新規機能解明を実証例として、ヒトモデルでの汎用性の高い表現型解析法を確立する。R3年度は、以下の成果を得た。1)2種類の異なる薬剤耐性遺伝子を用い、バルプロ酸を用いて一時的にクロマチン領域を緩め、非相同末端結合(NHEJ)修復機構により、あらゆるクロマチン領域での迅速な両アリルゲノム編集が可能な技術を開発し、ヒトiPS細胞における有用性を検討した。2)ヒトモデル表現型解析法の実施例として、Tolloid-like1(TLL1)のヒト肝発生における機能解明を行った。その結果、TLL1は肝幹前駆細胞から胆管上皮細胞への分化を促進することを明らかにした。3)ヒトiPS細胞から腸管上皮細胞への分化誘導系やヒト腸管オルガノイドを用いた腸管上皮細胞分化に関わる遺伝子群の機能解析を目的に、ヒト腸管オルガノイドおよび単層膜におけるRNAseq解析を行い、吸収上皮細胞への急激な分化に伴って発現誘導される遺伝子の絞り込みを行った。4) 我々が同定した非アルコール性脂肪肝疾(NASH)関連マイクロRNA miR-27bの標的遺伝子であるMaip1欠損マウスの表現型解析を進めた。さらに、MAIP1欠損ヒトiPS細胞を樹立した。
2: おおむね順調に進展している
R3年度は以下を実施した。1)ヒトiPS細胞やヒト肝臓・腸管オルガノイドにおける高効率両アリルゲノム編集技術開発: 両アリルゲノム編集は1%以下と極めて低かった。そこで、2種類の異なる薬剤耐性遺伝子やバルプロ酸を用い、NHEJ修復機構により、あらゆるクロマチン領域での迅速な両アリルゲノム編集が可能な技術を開発し、ヒトiPS細胞における有用性を検討した。2)ヒトiPS細胞から肝細胞への分化誘導系やヒト肝臓オルガノイドを用いたTLL1および中胚葉細胞の肝発生における機能解析: C型肝炎ウイルス排除後の肝癌発症やNASH患患者の肝線維化進展へ関与が報告されているTLL1の胆管形成に寄与について解析した。TLL1欠損(KO)ヒトiPS細胞を樹立し、胆管上皮細胞への分化誘導過程におけるTLL1の機能解明を試みたところ、TLL1は肝幹前駆細胞から胆管上皮細胞への分化を促進することを見いだした。3)ヒトiPS細胞から腸管上皮細胞への分化誘導系やヒト腸管オルガノイドを用いた腸管上皮細胞分化に関わる遺伝子群の機能解析: 研究代表者らは最近、ヒト生検小腸組織由来オルガノイドを単層培養化したところ、吸収上皮細胞への急激な分化が誘導されることを見いだした。そこで、ヒト腸管オルガノイドおよび単層膜においてRNAseq解析を行い、吸収上皮細胞への急激な分化に伴って発現誘導される遺伝子の絞り込みを行った。4) NASH関連マイクロRNA miR-27bの標的遺伝子MAIP1の機能解析: 当初計画に加え、関連研究として本研究についても実施した。我々は以前にNASH患者で発現上昇するマイクロRNA miR-27bの標的遺伝子としてMAIP1を同定した。そこで、Maip1 KOマウスを作製し生体の脂質代謝への寄与について検討した。さらに、ヒトモデルでの検証を目的に、MAIP1欠損ヒトiPS細胞を樹立した。
1)ヒトiPS細胞やヒト肝臓・腸管オルガノイドにおける高効率両アリルゲノム編集技術開発: 昨年度確立したゲノム編集法を用いて、本研究全般に使用するKO細胞を樹立する。適宜修正が必要であれば、修正し、本研究の迅速な実施につなげる。2)ヒトiPS細胞から肝細胞への分化誘導系やヒト肝臓オルガノイドを用いたTLL1および中胚葉細胞の肝発生における機能解析: C型肝炎ウイルス排除後の肝癌発症やNASH患患者の肝線維化進展へ関与が報告されているTLL1の胆管形成に寄与について解析した。まず、TLL1欠損(KO)ヒトiPS細胞を樹立し、胆管上皮細胞への分化誘導過程におけるTLL1の機能解明を試みたところ、TLL1は肝幹前駆細胞から胆管上皮細胞への分化を促進することを見いだした。3)ヒトiPS細胞から腸管上皮細胞への分化誘導系やヒト腸管オルガノイドを用いた腸管上皮細胞分化に関わる遺伝子群の機能解析: TLL1による胆管上皮細胞分化の制御における分子機構を明らかにし、肝臓発生におけるTLL1の機能解明を目指す。また、TLL1のホモログであるBMP-1とTLL1とのダブルKO iPS細胞や、TLL1の産生源である中胚葉系細胞の分化を抑制するためにFlk-1のKO iPS細胞を用いた検討も実施する。4) NASH関連マイクロRNA miR-27bの標的遺伝子MAIP1の機能解析: Maip1 KOマウスの脂質代謝への寄与について表現型解析を詳細に行うと同時に、Maip1 KOマウスで見られた表現型がMAIP1欠損ヒトiPS細胞由来肝細胞でも観察されるかを検討する。
新型コロナウイルス感染症の影響により、iPS細胞を用いた実験を行うに当たって必須の海外メーカーから調達する実験試薬の調達に大幅な遅延が生じたため、iPS細胞を用いた一部の実験に遅延が生じた。本実験試薬は、R4年3月から4月にかけて入手できたため、遅延した研究についてはR4年度中に実施する計画である。なお、一部の研究については研究が遅延したが、本研究全体を考えると研究は計画通りに実施できたため、現在までの進捗状況としてはおおむね順調に進展しているとした。
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Mol. Ther. Methods. Clin. Dev.
巻: 22 ページ: 263-278
10.1016/j.omtm.2021.05.005. eCollection 2021 Sep 10.