研究課題/領域番号 |
21K18248
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
辻川 和丈 大阪大学, 大学院薬学研究科, 教授 (10207376)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | がん / 細胞外小胞 / 単球 / RNA修飾 / 炎症性サイトカイン / Toll様受容体 / がん細胞増殖 / 5’-tRF-GlyGCC |
研究実績の概要 |
本研究は、がん細胞が細胞外小胞(Extracellular Vesicle: EV)内のRNA修飾体バランスを正常細胞と変えて放出することにより単球や腫瘍関連マクロファージのToll-like receptor (TLR)に非自己として認識させ、自然免疫系を活性化させることによりサイトカイン産生を介してがん細胞有意な微小環境へと誘導する戦略を取っていることを、がん術後組織を利用し、がん組織由来EVと独自RNA修飾解析基盤技術の活用により検証することを目的とするものである。 前年度、大腸がん術後臨床検体由来がん部EVにおいて、非がん部由来EVと比べtRNAの分解産物である5’-tRF-GlyGCCが特徴的多量に搭載されていることを突き止めた。また合成5’-tRF-GlyGCCはマクロファージのTLR8を介した炎症性サイトカイン産生促進を誘導した。そこでがん部EV由来5’-tRF-GlyGCCは非がん部由来と異なるRNA修飾状態にあるのではないかと推測し、質量分析計を用いたエピトランスクリプトーム解析を実施した。その結果、精製がん部EV由来5’-tRF-GlyGCCは、非がん部と比べN6-methyladenosine (m6A)レベルが有意に低下していることを突き止めた。そこでRNAのm6A脱メチル化酵素であるALKBH5のリコンビナントタンパク質と非がん部EV由来5’-tRF-GlyGCCをインキュベートし、m6A脱メチル化を確認後マクロファージに添加した。その結果、脱メチル化前と比べTNF-aやIL-6の産生が有意に上昇した。 これらの結果は、がん細胞はEV中のRNA、特に5’-tRF-GlyGCCのm6Aレベルを低下させることによりTLR8を介した免疫機能攪乱を誘導させ、がん細胞増殖を優位にさせる機構を発現していることを初めて明らかにできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
大腸がんが放出するEVには、大腸非がん部から放出するEVとは異なるm6Aレベルを有する5’-tRF-GlyGCCの存在を認めた。またそのm6AレベルをRNA m6A脱メチル化酵素であるALKBH5を用いて制御することにより、マクロファージ由来の炎症性サイトカイン産生が攪乱されることを証明した。tRNA-derived small RNAのメチル化が制御され、がんでは低m6Aレベルにより免疫系が攪乱される機序を初めて明らかにしたことから、当初以上に計画を進めることができていると判断した。 またこの研究進展によりALKBH5の脱メチル化酵素阻害剤の開発も始めており、新機序によるがん治療創薬の可能性も見えてきた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、がん細胞放出するEVがRNA修飾体バランスを正常細胞と変えて放出することにより腫瘍関連マクロファージに非自己として認識させ、自然免疫系を活性化させることによりがん細胞有意な微小環境へと誘導する戦略を証明することが目的である。最終年度では、がん細胞のALKBH5をノックダウンし、マクロファージと共培養により炎症性サイトカインバランスが攪乱されないことを細胞レベルで示す。さらに臨床検体由来培養細胞を用いて、ALKBH5阻害剤の効果を検証するとともに、マウス腫瘍モデルを用いて個体レベルでの評価を行う。これにより本仮説を証明し、新たながん細胞の免疫攪乱戦略を確立する。
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