本研究では、自己細胞由来のがん細胞が自然免疫系の細胞機能を操るのか、またその機構があるとしたらどのような機序によりがん細胞自らの生存や増殖を有利にしているのかの問いに対して、大腸がん臨床検体の活用により研究した。その結果、大腸がん組織は大腸非がん部組織と比べて多いRNA量を含有した細胞外小胞(Extracellular Vesicles: EV)を放出している。そのRNAの中でも、tRNA Fragment (tRF)の1つである5'-tRFのGlycine-GCC (5'-tRF-GlyGCC)量が多いことが示された。またその5'-tRF-GlyGCC はALKBH5によりN6-methyladenosine(m6A)が脱メチル化されていることが示された。大腸がん細胞はm6Aレベルを低下させた5'-tRF-GlyGCCをEVに封入して放出していたのである。そこでそのEVの自然免疫系担当細胞の単球、マクロファージに対する作用を解析した結果、m6A低レベル5'-tRF-GlyGCCはTLR8により認識されてシグナル伝達を惹起し、炎症性サイトカインであるTNF-αやIL-6を放出させる機序の存在が明らかとなった。また単球やマクロファージから放出されたTNF-αやIL-6は大腸がん細胞の増殖を促進することも認めた。さらにin vitroで転写した5'-tRF-GlyGCC(アデノシンのメチル化はない)をトランスフェクション下EVをin vivo大腸がんモデルマウスに投与したところ、腫瘍形成促進作用が認められた。 本研究により、がん細胞は特徴的なRNA修飾レベルを低下させたtRF含有EVの放出により、自然免疫系を制御してがん細胞の増殖や生存性を有意にさせる機序の存在を示すことができた。
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