研究実績の概要 |
細胞増殖因子は他に置き換えられない顕著な薬効をもつが、医薬として利用されている増殖因子は一部にとどまっている。最大の理由は、生体内安定性の低さや医薬としての化学特性が不十分であることに起因している。私たちは、RaPIDスクリーニングにより、HGF(肝細胞増殖因子)やMET受容体に結合する環状ペプチドを取得し、優れた分子特性や応用を検証した(Nature Commun, 2015; Scientific Rep, 2018; Nature Chem Biol, 2019)。とりわけ、MET受容体に結合する環状ペプチドを架橋することにより、MET受容体の2量体形成を誘導、その結果としてMET受容体を活性化する化学合成METリガンド(合成HGF)の創成に成功した。一方、環状ペプチドをファルマコフォアとして、その配列を任意のscaffoldタンパク質に移植/graftする(Lasso-Graft法)ことによって、新たな標的特異性や新機能をscaffoldタンパク質に付与できることを示した(Nature Commun, 2021)。本方法は菅裕明博士(東京大学)、高木淳一博士(大阪大学)によって確立された手法である。そこで、Lasso-Graft法により、MET結合ペプチド配列(aMD4)をFc部分にgraftすることによって(Fcは2量体ゆえFc分子内2箇所にaMD4配列が呈示される)、MET活性化能と同時に、血中で高度に安定な「超機能HGF」を創成できる可能性を考えた。本年度、MET結合配列をヒトIgGのFc分子内にgraftすることにより、HGFとほぼ同等のMET活性化能をもつ分子(aMD4-Fc)を創成することに成功した。aMD4-Fcをマウスに投与したところ、10日ほど経っても、MET活性化を引き起こす濃度が維持された。抗体なみの高い血中安定性をもつMETアゴニストタンパク質を創成することに成功した(論文投稿中)。
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