研究課題
細胞増殖因子は他に置き換えられない顕著な生理活性をもつが、化学的な特性により、医薬として利用される増殖因子は一部にとどまる。私たちはHGFやMET受容体に高い親和性で特異結合する環状ペプチドを取得した(Nature Commun, 2015; Nature Chem Biol, 2019)。また、環状ペプチド配列をscaffoldタンパク質に内挿/graftすることによって、標的結合性を様々なscaffoldタンパク質に付与できることを示した(Lasso-Graft法)(Nature Commun, 2021)。一方、増殖因子受容体はダイマー化によって活性化されることから、MET結合ペプチド配列が2ヶ所内挿されたタンパク質はMET受容体のダイマー化、すなわちMET活性化能をもつ可能性がある。本研究はLasso-Graftタンパク質工学技術を用いて、超機能バイオロジクスを取得することを目的としている。MET結合ペプチド配列(aMD4)を、ヘテロダイマータンパク質であるIgG Fc部分に内挿することによって、Fc分子内にaMD4配列が2ヶ所呈示されたFcが得られた。同分子によるMET活性化を評価した結果、HGFと同等のMET活性化能をもつことが検証された。マウスでの検討から、投与後10日を経過しても、MET活性化を引き起こす同分子の血中濃度が維持された。すなわち、HGFに匹敵するMET活性化能に加え、血中で高度に安定な“HGF-mimetic”を創成することに成功した。長期血中安定性をもつ分子による疾患治療への応用を考慮し、NASH肝疾患モデルにおいて顕著な薬効を示すことが検証された。さらに、MET活性化はニューロンの生存を促す。そこで、血液脳関門/BBBを通過することが可能な抗トランスフェリン受容体抗体のFc領域にaMD4を内挿することによって、MET活性化能と同時に、脳実質内ニューロンに到達する超機能分子を創成することに成功した(Nature Biomed Eng, 2023)。 以上、汎用性の高い分子技術を用いることによって、従来には達成されなかった、高機能細胞増殖因子の創成に成功した。
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