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2022 年度 実施状況報告書

糖鎖シグナル伝達の新コンセプトがもたらす細胞制御

研究課題

研究課題/領域番号 21K18251
研究機関名古屋大学

研究代表者

門松 健治  名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (80204519)

研究期間 (年度) 2021-07-09 – 2024-03-31
キーワードヘパラン硫酸 / ALK / PTPRσ / LAR / 糖鎖
研究実績の概要

糖鎖はタンパク質と比べてゆらぎが大きく、X線やMRIの解析により平均的立体構造を得ることは難しい。従ってこれまでタンパク質の常識は糖鎖では非常識であることが多くあった。その最たるものとして、増殖因子(タンパク質)のように直接に受容体を介して細胞内にシグナルを伝えることは糖鎖にはできないと考えられてきた。ところが最近糖鎖に対する受容体が見つかり、但し、その酵素活性の生物学的意義は不明であった。我々はその糖鎖のリガンドとしてのコア構造を決定し、受容体酵素の基質を含む下流シグナル、そしてそれによる神経軸索再生制御を解明した。この発見は例外的な糖鎖のシグナル経路とは考えにくく、新しいコンセプトが隠されている可能性が高い。本研究の眼目は、多面的アプローチによって、糖鎖シグナル伝達という新コンセプトを樹立することにある。
我々は、異なる糖鎖受容体同士のクロストークを見出すことができた。すなわち、受容体型チロシンフォスファターゼPTP sigma(Protein Tyrosine Phosphatase sigma)と受容体型チロシンキナーゼALK(Anaplastic Lymphoma Kinase)のコータクチンのリン酸化、脱リン酸化を介するクロストークである。さらに、PTP sigmaとALKの共通基質候補分子はコータクチン以外にも複数あることを近接ビオチンラベリングによって見出した。R4年度はこれらの共通基質候補分子群の中でAPBB1(Amyloid Beta Precursor Protein Binding Family B Member 1)に注目して解析を進めている。また、もう一つ、糖鎖スイッチの生物学的意義の観点からembryoとadultの軸索再生能の対照的な差異を検証し、HSの一つであるグリピカン2が決定的役割を担うことを見出した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究の目的達成のために以下の3つの目標を設定してきた。
1.ALK活性化に必要なHS機能ドメインの決定
2.ALK・PTP sigma・LARの網羅的基質探索と共通基質の決定
3.機能的糖鎖リガンドによる多層的糖鎖スイッチの生物学的意義の検証
上記のうち2.について、R3年度、糖鎖受容体酵素の基質同定により異なる受容体同士(キナーゼとフォスファターゼ)のクロストークを見出すことができた。すなわち、コンドロイチン硫酸(CS)の結合によって受容体型チロシンフォスファターゼPTP sigmaは単量体となり活性化され、その下流でコータクチンの脱リン酸化が起こる。一方でヘパラン硫酸(HS)の結合ではPTP sigmaは多量体となり不活化され、コータクチンの脱リン酸化は抑えられる。ところが受容体型チロシンキナーゼALKはHSによって多量体となって活性化され、コータクチンをリン酸化する。コータクチンはアクチン重合を安定化しリソゾームとオートファゴソームの融合に必須であり、これによってオートファジー流が軸索先端から細胞体方向へ正常に流れ軸索は伸長する。我々は近接ビオチンラベリングによりPTP sigmaとALKと相互作用する細胞内分子の中で共通する分子(共通基質候補分子)がコータクチン以外にも複数あることを見出した。R4年度はこれらの共通基質候補分子群の中でAPBB1(Amyloid Beta Precursor Protein Binding Family B Member 1)に注目して解析を進めている。また、もう一つ、糖鎖スイッチの生物学的意義の観点からembryoとadultの軸索再生能の対照的な差異を検証し、HSの一つであるグリピカン2が決定的役割を担うことを見出した。

今後の研究の推進方策

目標1「ALK活性化に必要なHS機能ドメインの決定」については、むしろ生体レベルでのALK の作用機構に課題をシフトして研究を進めたいと考えている。すなわち、ALK欠損マウスの低体重と交感神経系活性化にALKが関与する可能性を見出している。ALKは脳内の限られた部位で特徴的な発現をしており、そこには交感神経系の神経核が存在することから両者の関連は生理的にも意義があると推測される。
目標2「ALK・PTP sigma・LARの網羅的基質探索と共通基質の決定」については、APBB1について解析を進める。
目標3「機能的糖鎖リガンドによる多層的糖鎖スイッチの生物学的意義の検証」については、embryoとadultの軸索再生能の対照的な差異を検証する。発見したHSの一つであるグリピカン2の決定的役割とは、具体的には、CSの濃度勾配の上では初代培養後根神経節細胞の軸索先端はadultではdystrophic endballを呈するが、embryoではgrowth coneを形成する。Embryoではグリピカン2の発現が他のHSプロテオグリカンに比べて顕著に高い。グリピカン2の発現を誘導するとadultでもgrowth coneを形成し、逆にグリピカン2のノックダウンではembryoでもdystrophic endballを形成する。グリピカン2がALK、PTP sigmaとどのようなクロストークを行うかを検証したい。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件) 図書 (1件) 備考 (2件)

  • [雑誌論文] Towards the in vivo identification of protein-protein interactions.2023

    • 著者名/発表者名
      Suzuki, Y., Kadomatsu, K., Sakamoto, K.
    • 雑誌名

      J Biochem

      巻: 23 ページ: 013

    • DOI

      10.1093/jb/mvad013

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Close association of polarization and LC3, a marker of autophagy, in axon determination in mouse hippocampal neurons.2022

    • 著者名/発表者名
      Segi, N., Ozaki, T., Suzuki, Y., Ouchida, J., Imagama, S, Kadomatsu, K., Sakamoto, K.
    • 雑誌名

      Exp Neurol.

      巻: 354 ページ: 114112

    • DOI

      10.1016/j.expneurol.2022.114112.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] SMG6 regulates DNA damage and cell survival in Hippo pathway kinase LATS2-inactivated malignant mesothelioma.2022

    • 著者名/発表者名
      Suzuki, K., Tange, M., Yamagishi, R., Hanada, H., Mukai, S., Sato, T., Tanaka, T., Akashi, T., Kadomatsu, K., Maeda, T., Miida, T., Takeuchi, I., Murakami, H., Sekido, Y., Murakami-Tonami, Y
    • 雑誌名

      Cell Death Discov.

      巻: 8 ページ: 446

    • DOI

      10.1038/s41420-022-01232-w.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Metabolome and transcriptome analysis on muscle of sporadic inclusion body myositis.2022

    • 著者名/発表者名
      Murakami, A., Noda, S., Kazuta, T., Hirano, S., Kimura, S., Nakanishi, H., Matsuo, K., Tsujikawa, K., Iida, M., Koike, H., Sakamoto, K., Hara, Y., Kuru, S., Kadomatsu, K., Shimamura, T., Ogi, T., Katsuno, M.
    • 雑誌名

      Ann Clin Transl Neurol.

      巻: 9 ページ: 1602-1615

    • DOI

      10.1002/acn3.51657. Epub 2022 Sep 15.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Systematic characterization of seed overlap microRNA cotargeting associated with lupus pathogenesis.2022

    • 著者名/発表者名
      Kitai, H., Kato, N., Ogami, K., Komatsu, S., Watanabe, Y., Yoshino, S., Koshi, E., Tsubota, S., Funahashi, Y., Maeda, T., Furuhashi, K., Ishimoto, T., Kosugi, T., Maruyama, S., Kadomatsu, K., Suzuki, HI.
    • 雑誌名

      BMC Biology

      巻: 20 ページ: 248

    • DOI

      10.1186/s12915-022-01447-4.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Reform of Journal of Biochemistry2022

    • 著者名/発表者名
      Kadomatsu, K
    • 雑誌名

      J Biochem

      巻: 172 ページ: 141

    • DOI

      10.1093/jb/mvac037.

    • 査読あり
  • [学会発表] Glycans in neural wiring/rewiring.2022

    • 著者名/発表者名
      Kenji Kadomatsu
    • 学会等名
      SfG 2022 Annual Meeting
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Glycans in neural wiring/rewiring.2022

    • 著者名/発表者名
      Kenji Kadomatsu
    • 学会等名
      Commemorative Symposium on the 30th Anniversary of Mizutani Foundation for Glycoscience.
    • 招待講演
  • [学会発表] 「糖鎖バイオマーカーの開発」糖鎖バイオマーカーの開発2022

    • 著者名/発表者名
      門松健治
    • 学会等名
      第65回 日本腎臓学会学術総会
    • 招待講演
  • [学会発表] 生命科学の未来:糖鎖がもたらす革新2022

    • 著者名/発表者名
      門松健治
    • 学会等名
      第63回 日本生化学会中国・四国支部例会
    • 招待講演
  • [学会発表] 糖鎖に関する生命科学研究~ヒト糖鎖プロジェクト~2022

    • 著者名/発表者名
      門松健治
    • 学会等名
      日本集中治療医学会第6回東海北陸支部学術集会
    • 招待講演
  • [図書] 「神経回路再生ならびに小児がん神経芽腫の研究」 最先端ナノライフシステム研究第Ⅱ編 マイクロ・ナノメカトロニクス研究2022

    • 著者名/発表者名
      坂元一真 尾崎智也 坪田庄真 郷詩織 鈴木佑治 門松健治
    • 総ページ数
      6
    • 出版者
      丸善プラネット
  • [備考] 糖鎖生命コア研究所

    • URL

      https://igcore.thers.ac.jp/

  • [備考] 名古屋大学大学院医学系研究科 生物化学講座分子生物学

    • URL

      https://www.med.nagoya-u.ac.jp/biochem/

URL: 

公開日: 2023-12-25  

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