研究課題
血球細胞の分化や機能を制御する遺伝子の同定は疾患治療法の開発に極めて重要であるが、その包括的な理解には至っていない。本研究では 、CRISPR/Cas9法による遺伝子スクリーニングによって骨免疫学に関連する血球細胞の分化および機能制御に必要な遺伝子の網羅的同定を目的とした。また、病理的条件下において特異的に誘導・活性化される細胞群について、それらの制御因子の同定を目指す。①破骨細胞の単一細胞遺伝子発現解析およびCRISPR/Cas9法を用いたスクリーニングを実施した結果、破骨細胞の分化を制御する転写因子Aが同定された。in vitroにおいて、転写因子Aの欠損により破骨細胞分化の障害が観察された。また、破骨細胞特異的に転写因子Aを欠損したマウスでは、骨量の増加および破骨細胞数の減少が認められた。今後は、転写因子AにTagを挿入したKIマウスを起点として、転写因子Aの相互作用タンパクの同定やゲノム結合領域の同定を目指す。②滑膜線維芽細胞(SF)におけるRANKLの発現制御を担うエンハンサーとしてE3を同定した。E3欠損マウスは、炎症による骨破壊に抵抗性であり、SFにおけるRANKL発現が低下した。in silico解析およびChIPアッセイにより、転写因子ETS1がE3に結合することが示された。ETS1をSF特異的に欠損するマウスでは、関節炎によって誘導される骨破壊が抑制され、その要因はSFにおけるRANKL発現低下であることが示唆された。以上より、E3とETS1を介したRANKL発現制御機構の一旦が明らかにされ、創薬シーズの発掘に繋がる重要な知見を得た(Yan et al., Nature Immunology 2022)。
2: おおむね順調に進展している
①昨年度に実施したスクリーニングの成果から、研究代表者は破骨細胞の分化誘導に必要と考えられる転写因子Aを同定した。転写因子Aを欠損する破骨細胞前駆細胞をin vitroで樹立した結果、破骨細胞分化は著しく障害された。本年度では、CRISPR/Cas9法によって転写因子Aを全身性に欠損するマウス(転写因子A-KO)と破骨細胞特異的に欠損するマウス(転写因子A-cKO)を作成し、その表現系解析を実施した。転写因子A-KOマウスは、胎生致死であった。転写因子A-KOの胎仔肝細胞から破骨細胞分化を誘導した結果、破骨細胞分化は前駆細胞の段階で停止し、成熟した破骨細胞は全く検出されなかった。転写因子A-cKOマウスは、体のサイズが小さく、骨量の増加を呈した。また、二次海綿骨にて有意な破骨細胞数の低下が認められた。②昨年度、研究代表者はCRISPR/Cas9 スクリーニング系を非コードゲノム領域に適応し、滑膜線維芽細胞(SF)におけるRANKLの発現を制御するエンハンサー領域E3を同定した。本年度は、E3領域へ結合する転写因子の同定と骨破壊におけるE3の役割の解明を目指した。関節炎モデルを実施した結果、E3欠損マウス(E3-KO)では、骨破壊が抑制され、SFにおけるRANKLの発現が低下した。in silico解析からE3に結合する候補転写因子としてETS1が同定された。ChIPアッセイより、ETS1がE3に結合することが示された。SF特異的ETS1欠損マウスでは、関節炎によって誘導される骨破壊の抑制とSFにおけるRANKLの低下を認めた。以上の結果より、炎症下におけるSF由来のRANKL発現は、ETS1がE3領域に結合することで誘導されることが示された (Yan et al., Nature Immunology 2022)。
転写因子A-cKOにおける軟X線撮影、microCTによる骨の微細構造の解析、骨形態計測を実施し、骨の表現系をより精査する必要がある。また、網羅的遺伝子発現解析を実施することで、転写因子Aが制御する遺伝子群の同定を試みる。転写因子AにFLAG-tagを導入したノックイン(KI)マウスを作成する。本マウスを用いて、転写因子Aをタンパク質レベルで検出し、タンパク質質量分析による転写因子Aとの相互作用タンパク質の同定、ゲノムの結合領域の決定を目指す。当該KIマウスを作成するにあたり、転写因子A の5’UTRの下流に複数のATG配列が存在することから、転写因子Aの開始コドンを同定する必要性が生じた。分子生物学、生化学的手法を用いて開始コドンの同定を目指す。
納品された物品が予定した金額よりも安価であったため、次年度使用額が生じたため。
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