研究実績の概要 |
急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome, ARDS)は、重症肺炎、敗血症、外傷や誤嚥などが誘因となって発症する重篤な急性肺炎症である。急速に肺水腫をひきおこし、重度の呼吸不全に陥るため極めて予後の悪い疾患である。呼吸不全に対して人工呼吸管理がおこなわれるが、ARDSを今のところ直接改善する特効薬はない。新型コロナウイルス肺炎COVID-19では高齢者や基礎疾患を持つ患者がARDSを引き起こして重症化することが大きな問題となっており、肺炎症を抑制し肺機能を改善する新規治療法の開発が切望されている。私たちはARDSのマウスモデルの解析過程で、好塩基球を除去した場合に好中球浸潤がひどくなり肺炎症が増悪し重症化することを見いだした。すなわち、肺浸潤細胞の0.1%を占めるに過ぎない好塩基球が炎症抑制に寄与していることが強く示唆された。炎症初期には肺でのIL-1, IL-6, TNFなどの炎症性サイトカイン発現亢進が認められたが、炎症回復期にはTh2サイトカインIL-4発現が高まり、その主たる産生細胞が好塩基球であることが明らかになった。高感度1細胞トランスクリプトーム解析による網羅的遺伝子の結果、好塩基球由来IL-4が好中球ならびにマクロファージなどの標的細胞に作用して肺炎症を抑制している可能性が考えられた。現在、各種遺伝子改変動物、細胞除去抗体、阻害剤などを使って好塩基球由来IL-4の標的細胞における炎症抑制機序の詳細を解析している。
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