研究実績の概要 |
急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome, ARDS)は、重症肺炎(コロナウイルス肺炎など)、敗血症、外傷や誤嚥などが誘因となって発症する重篤な急性肺炎症である。呼吸不全に対して人工呼吸管理がおこなわれるが、今のところARDSを直接改善する特効薬はなく致死率が30-40%と極めて高いため、新規治療法の開発が切望されている。最近のコホート研究において患者末梢血好塩基球数の低下とARDS重症度との相関が見られるとの報告がなされたが、両者の直接な因果関係は不明である。そこで私たちはARDSのマウスモデルを用いてARDSにおける好塩基球の役割を検証した。このARDSモデルでは、急性の肺炎症が誘導されたのちに炎症が次第に回復するという2相性のパターンが認められたが、好塩基球を除去したマウスではARDS後期にみられるはずの炎症回復がおこらず肺炎症が増悪し重症化した。すなわち、肺浸潤細胞の0.1%を占めるに過ぎない好塩基球がARDS炎症の回復に寄与していることが判明した。各種遺伝子改変マウスを用いた機能解析、高感度1細胞トランスクリプトーム解析などを駆使した詳細な解析の結果、好塩基球の分泌するサイトカインIL-4が炎症惹起細胞である好中球に作用して、好中球の炎症性サイトカイン・ケモカインの産生を抑制するとともに好中球のアポトーシス死を促進して炎症終焉を誘導することが明らかになった。本研究成果を踏まえて、ヒトARDS病態における好塩基球の役割を解析することで、ARDSの新規治療法の標的が明らかになるものと期待される。
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