研究課題
T細胞抗原受容体 (TCR) を用いたがんのTCR-T細胞療法は、免疫チェックポイント阻害剤療法を補完する免疫学的がん治療法のひとつとして注目されている。課題として、治療に使われる細胞傷害性CD8陽性T細胞のTCRが主要組織適合抗原 (HLA) クラスI分子に拘束されており、HLAクラスI分子の多型性のために、1人の患者から取得した腫瘍特異的TCRを、HLAの異なる別の患者の治療に用いることができないことがある。我々はこれまでに乳癌患者の腫瘍浸潤CD8陽性T細胞のTCRを単一細胞レベルで解析し、その中から患者HLAクラスI分子に関係なく腫瘍細胞に反応するTCRを見出した。本研究の目的として、取得したHLAクラスI非拘束性腫瘍反応性TCRの抗原提示分子を明らかにし、抗原分子を同定することが掲げられている。令和3年度は抗原提示分子を明らかにするためにHLAクラスI分子、β2-ミクログロブリン分子、MR1分子をそれぞれノックアウトした乳がん細胞株を作製し、各TCRの反応性を解析した。その結果、取得した全てのHLAクラスI非拘束性TCRはβ2-ミクログロブリン及びMR1分子をノックアウトした乳がん細胞株に反応することができなかった。このことより、我々が取得したHLAクラスI非拘束性TCRはMR1分子に提示された抗原を認識することがわかった。MR1拘束性のT細胞としてMucosal associated invariant T (MAIT)細胞が知られており、そのTCRに結合する抗原/MR1分子複合体テトラマーが作製されている。我々はそのテトラマーが同定したTCRに結合するか調べたが、結合しなかった。以上の結果より、我々が同定したHLAクラスI非拘束性TCRはMR1分子に提示される抗原を認識するが、既知のMAIT細胞の抗原とは異なるものを認識することがわかった。
2: おおむね順調に進展している
令和3年度は解析するHLAクラスI非依存性のTCRの抗原提示分子を決めることができ、また、抗原が既知のMR1拘束性のMAIT細胞の抗原とは異なることがわかった。研究はほぼ順調に進んでいる。
今後は、取得したHLAクラスI分子非拘束性のTCRが様々な種類の腫瘍細胞および正常細胞に反応するかを解析し、さらに抗原分子同定のための予備実験を進める。さらにin vitroおよびin vivoにおける抗腫瘍活性を解析していく。
令和3年度は主にHLAクラスI非依存的腫瘍反応性TCRの抗原提示分子の同定に注力し、HLAクラスI非依存的腫瘍反応性TCRの細胞反応性やTCRの抗原分子の同定、抗腫瘍活性の検討は予備的な検討をするにとどまったため、その分次年度使用額が生じた。TCRの抗原分子同定の準備その他の研究の実施へ向けての準備は整ってきたので、令和4年度はTCRの抗原分子同定およびin vitroおよびin vivoにおけるHLAクラスI非依存的腫瘍反応性TCRの抗腫瘍活性の研究に助成金を使用していく。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
European Journal of Immunology
巻: 51 ページ: 2306~2316
10.1002/eji.202049070
Cancer Science
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