研究課題/領域番号 |
21K18273
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
木村 航 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (60452182)
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研究分担者 |
清成 寛 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (40721048)
魚崎 英毅 自治医科大学, 医学部, 准教授 (90740803)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 心臓再生 / 心筋細胞 / 細胞周期 / オポッサム / AMPK |
研究実績の概要 |
哺乳類では,胎仔や出生直後の新生仔は器官形成期にあり,心臓では心筋細胞が増殖しているため損傷を受けた心筋を再生できる.しかしマウスやヒトなど,ほとんどの哺乳類では出生後すぐに器官成熟期に入り,心臓では心筋細胞が細胞分裂を停止するため,心筋組織の再生能は失われる.ヒト成体が心筋再生能を持たないことこそが,心血管系疾患が世界の死因の第一位を占める主因である. 我々はマウスを用いて,心筋での器官形成から成熟への切り替わり,すなわち心筋細胞の細胞周期停止は,新生仔が出生後に子宮外環境へ暴露されることが引き金となって起こることを報告した.一方,同じ哺乳類でも有袋類は超未熟仔の状態で誕生し,器官形成の大部分を子宮外環境で行うため,出生が器官形成から成熟への切り替わりと同調しない.我々は,このような出生の異時性を示す有袋類オポッサム(Monodelphis domestica)の出生直後から生後2ヶ月までの心筋細胞の細胞周期,細胞サイズ,核数,倍数性を検討し,心筋細胞増殖が出生後1ヶ月以上継続することを見出した.さらに心尖部切除と心筋梗塞の導入により,オポッサム新生仔では心筋再生能が出生後少なくとも2週間維持され,出生後1ヶ月までに減衰することを見出した. さらに,既存データベース(Cardoso-Moreira et al., Nature 2019)を利用した遺伝子発現解析と薬理学的・遺伝学的介入により,オポッサム及びマウスの心筋細胞の細胞周期停止にAMPKシグナルが重要な役割を果たすことを示した.以上のように,種間比較により哺乳類において進化的に保存された心筋再生の分子機構の一端が解明された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有袋類オポッサム(Monodelphis domestica)の心筋細胞増殖が出生後1ヶ月以上継続することを見出した.さらに心尖部切除と心筋梗塞の導入により,オポッサム新生仔では心筋再生能が出生後少なくとも2週間維持され,出生後1ヶ月までに減衰することを見出した. さらに,既存データベース(Cardoso-Moreira et al., Nature 2019)を利用した遺伝子発現解析と薬理学的・遺伝学的介入により,オポッサム及びマウスの心筋細胞の細胞周期停止にAMPKシグナルが重要な役割を果たすことを示した.
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今後の研究の推進方策 |
我々はマウスでは出生後のミトコンドリア代謝の活性化が酸化ストレスを介して心筋細胞の細胞周期チェックポイントを活性化させ,細胞周期を停止させることを見出している.そこでオポッサムでも同様の機構が働いているか検討するため,出生直後から2ヶ月までのオポッサム新生仔心筋でのミトコンドリア代謝を検討する.さらに酸化ストレスについて比較するとともに,低酸素環境下での飼育とROS消去剤NAC投与により心筋細胞の細胞周期停止が一ヶ月以上に延長されるか検討する.またトランスクリプトーム解析により得られた新規候補因子について,心筋細胞の代謝と細胞周期制御における機能を解析する.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大に伴う出勤制限および海外製品の搬入の遅れにより,プロテオミクス解析に関する研究計画に遅れが生じたため,次年度使用額が生じた.プロテオミクス解析は本年度に実行可能になる予定であり,前年度分と合わせて予算額を執行する.
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