研究課題/領域番号 |
21K18276
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
砂川 玄志郎 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 上級研究員 (70710250)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 休眠 / 冬眠 / 急性疾患 / 冬眠の臨床応用 / 搬送医療 |
研究実績の概要 |
本研究ではマウスにおいて冬眠様低代謝によって疾患の進行が遅延できるか検証する。本年度は、本研究に必須となるアデノ随伴ウイルス(AAV)の製造ラインを確立し、冬眠様状態(QIH; Q neurons-induced hypometabolism)を誘導できるマウス(Q-M3マウス)を安定供給できる体制を整えた。また、下記の疾患モデルを作成し、QIHの誘導によって生命予後が改善するか検証した。 1.急性腎不全 急性腎不全は腎機能の低下に伴い体液恒常性・電解質恒常性が破綻し、呼吸機能・心機能の低下が生じ死に至る。しかし、全身代謝を低下させることで、本来であれば腎臓で処理されるべき水分・代謝産物・電解質の産生が減ることが予想されるため、冬眠によって急性腎不全に随伴する心肺機能低下の進行は遅延できると考え、実験的に検証を行った。本年度は、Q-M3マウスへ対して両側腎茎部結紮を行い、無加療群とQIH誘導群の予後を比較し、QIH群が生存時間が長いことを確認した。今後は腎茎部の一過性クランプによる虚血によって、より軽症の急性腎不全モデルに同研究をすすめる。 2.敗血症 敗血症は感染による全身的炎症反応であり、放置されると免疫系の過剰反応によりショック、多臓器不全などを生じ、最終的には死に至る。免疫系を含めた全身の代謝を低下させることができれば、炎症の増悪を抑制できると予想されるため、冬眠によって敗血症の進行が緩徐化できる可能性があると考え、実験的に検証を行った。本年度は、Q-M3マウスへ対して盲腸結紮穿刺による敗血症性腹膜炎モデルを作成し、無加療群とQIH誘導群の間で予後が変わるか検証したところ、QIH群の生存時間が長いことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度はリアルタイムPCRシステムを整備し、本研究に必須となるアデノ随伴ウイルス(AAV)の製造ラインを確立し、冬眠様状態(QIH; Q neurons-induced hypometabolism)を誘導できるマウス(Q-M3マウス)を安定供給できる体制を整えた。計画している疾患モデルのうち、急性腎不全と敗血症の2モデルを導入し、QIHにより疾患進行がどのように変化するか検証した。急性腎不全モデルに関しては、Q-M3マウスへ対して両側腎茎部結紮を行い、無加療群とQIH誘導群の予後を比較し、QIH群が生存時間が長いことを確認した。敗血症に関しては、Q-M3マウスへ対して盲腸結紮穿刺による敗血症性腹膜炎モデルを作成し、QIH誘導により生存時間が延長することを確認した。生化学的検査によって炎症の進行も遅延していることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
急性腎不全モデルに関しては、両側腎茎部結紮では致死性が高く、QIHによる致死に至る時間は検証できてもより、腎臓における組織学的炎症所見の変化などを観察することは難しいため、よりマイルドな腎不全症状を呈する一過性虚血性腎不全モデルを導入する。この手法により、血清学的検査や、組織学的検査によりQIHが疾患に及ぼす影響を評価する。敗血症に関しては、QIH誘導に抗生剤による治療を組み合わせた場合にどのような予後の変化が生じるか、また全身の臓器の組織学的変化を検証し、論文化する。重症肺炎に関しては、感染させるマウス化インフルエンザウイルス(A/California/04/2009株を予定)を精製し、肺炎モデルを作成し、無加療の肺炎モデルがどのような経過をたどるか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品の値段の変動による端数が生じたために2,329円が次年度使用となったが、2022年度に消耗品として活用する。
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