研究実績の概要 |
本研究ではマウスにおいて冬眠様低代謝によって疾患の進行が遅延できるか検証した。本年度は、冬眠様状態(QIH; Q neurons-induced hypometabolism)を誘導できるマウス(Q-M3マウス)を安定的に作出し、同マウスで疾患モデルを作成することで、QIHの誘導によって疾患の生命予後が改善するか検証した。最初の2年間は主に急性腎不全モデルに対するQIHの効果を評価した。QIHによる体温低下は環境温度によって制御することができるため、環境温度を30度以上に設定することで低体温ではないQIHを誘導できる。この手法により低体温ではない低代謝状態を作り出すことができ、虚血による急性腎障害を防ぐことをつきとめた。つまり、温かい冬眠が虚血に有効であることがわかった(Kyo S, et al., JTCVS Open, 2022)。最終年度は、冬眠様状態が敗血症へ及ぼす影響を評価した。敗血症は感染による全身的炎症反応であり、放置されると免疫系の過剰反応によりショック、多臓器不全などを生じ、最終的には死に至る。マウスの敗血症モデルは、QIHの誘導によって生存時間が延伸することがわかった。さらに、既存の治療、すなわち抗菌療法や容量負荷治療と組み合わせるとさらに効果が増強することがわかった。本研究により、冬眠様状態が2つの全く異なる急性疾患へ対して抑制的に機能することが明らかとなった。既存の治療法とは全く原理が異なるため、人間の人工冬眠技術を開発することの大きな意義を見出したと言える。
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