研究課題
世界中で肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病が急増している。これまで、飽和脂肪の過剰摂取がこの原因と考えられてきたが、最近になり、主に疫学研究からスクロース(ショ糖)の過剰摂取が問題であることが明らかになってきた。摂取したフルクトースは肝臓に流入して“フルクトース毒性”を引き起こすと考えられていた。しかし、血液中(門脈も)にほとんどフルクトースが現れず、肝細胞に大量に流れ込むことがなく、フルクトース代謝(フルクトリシス)は素早く代謝されると考えられ、脂質合成の基質(アセチルCoA)を素早く供給するとされているが、アセチルCoAの収支は同じであるなどの問題が指摘されてきた。私達をはじめ成果のグループが、これを解決して新しい概念を提唱しようとしてきた。私達は、小腸がフルクトースの主要な代謝場所であり、溢れたフルクトースが大腸で腸内細菌叢を変化させた結果として脂質代謝異常が起きることが示してきた。本研究では、スクロース、フルクトースの毒性に関与する腸内細菌を同定することを試みてきた。4種の抗生物質カクテルを投与すると脂質代謝異常が見られなくなり、そのうち一つの抗生物質Aで脂質代謝異常が抑えられることがわかった。このA抗生物質には、作用機序がいくつかあり、その抗生物質Aと同じグループに属するもののわずかに作用が異なる抗生物質を3種比較したところ、抗生物質Aにのみその脂質代謝異常を抑制効果があることがわかった。その実験だけでは、責任細菌を同定するのは難しいと考え、これまでのスクロースを食べさせた実験すべてを対象に、バイオインフォマティクスを使ってスクロースで変化する腸内細菌を絞り込んだ。スピアマンの順位相関係数で有意なものを拾い集めた。次に、今回A抗生物質で変化したものをピックアップしたところ、5つの細菌に絞り込めた。
2: おおむね順調に進展している
動物実験において、抗生物質を狭めていくことにより、責任腸内細菌が狭められるものの、その効果は小さくなってしまう。そのため僅かな違いを検出しなくてはならず時間がかかっている。また、バイオインフォマティクス解析には、動物実験以上の時間を要する。特に腸内細菌のバイオインフォマティクスは、最初の数ステップだけが定型化しているだけであり、他はすべて自分の研究に合うやり方を模索していかなくてはならない。それをやった結果として絞り込みに成功してきた。完全に絞り込めてはいないが、概ね順調であると考えている。
まずは責任細菌の同定を行うために、絞り込んだ腸内細菌のうち嫌気培養が可能な菌を大量培養し、それを動物に戻して脂質代謝異常が発揮されるかについて検討する。大腸の腸内細菌から肝臓における脂質代謝に影響を及ぼすメディエイターを探す目的で、腸内細菌が作る代謝物を解析する。これにはメタボローム解析を行い、網羅的に代謝物を解析する。フルクトースによる脂質代謝異常に関係する細菌を同定するのに、異なる角度から見ることで、共通項を見つけやすくなる。すでにスクロースと類似な構造を取るにも関わらず脂質代謝改善効果が知られているFOSを比較検討してきた。次からは浸透圧を変えると考えられる食品成分を使ってスクロースや食品成分で変化する腸内細菌を決定する。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
J. Nutr. Biochem.
巻: 111 ページ: 109185
10.1016/j.jnutbio.2022.109185