研究課題/領域番号 |
21K18298
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研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
宮戸 健二 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 細胞医療研究部, 室長 (60324844)
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研究分担者 |
山田 満稔 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (40383864)
櫻木 淳一 神奈川県衛生研究所, 微生物部, 部長 (90273705)
河野 菜摘子 明治大学, 農学部, 専任准教授 (00451691)
宮戸 真美 別府大学, 食物栄養科学部, 教授 (00386252)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2026-03-31
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キーワード | 逆ミセル / 細胞外微粒子 / 体質 / 栄養摂取 / マイクロエクソソーム / エクソソーム / CD9 / テトラスパニン |
研究実績の概要 |
マイクロエクソソームは、エクソソームと構成成分を共有するものの構造が異なり、エクソソームよりも微細で、脂質二重膜を持たない逆ミセル構造をとり、集合してマトリックス様のシートを形成する。さらに、エクソソームが多胞性エンドソーム由来であるのに対して、マイクロエクソソームは細胞膜の陥入によって形成される。我々は、多くの器官から逆ミセル型構造体が分泌されると考えている。そこで本研究では、マイクロエクソソームの構成成分、形成過程を解明することで、2つの構造体が存在する生物学的意義を、栄養摂取・代謝サイクルの細胞レベルでの転換から解明する。2つの構造体(マイクロエクソソームとエクソソーム)が、正常細胞と疾患細胞で使い分けられているという考えは、疾患の発症の前段階にある体質の変化の理解にパラダイムシフトを提示し、生命科学全体に波及効果をもたらす。本年度は、カルシウム波による生体機能制御、不妊症の原因究明、着床の分子メカニズムを中心に研究を行った。具体的には、栄養飢餓条件下での細菌によるATP産生に必要なポリリン酸は。我々の細胞にも蓄積しているものの、生理活性は不明であった。卵を用いて検討したところ、カルシウム上昇を引き起こすことが明らかになった。また、CD9結合ペプチドの癌転移への抑制効果を明らかにした。さらに、不妊症の原因として卵に栄養を供給する体細胞の異常が生じるが、その異常の原因として、オートファジーの異常によって異常なライソソームの増殖が起こることを明らかにした。さらに、トレハロースに、これらの異常を抑制し、排卵を促進する作用があることを明らかにした。さらに、WNTシグナルを介した着床のメカニズムの一端を明らかにした。胚を受容し、細菌やウイルスを拒絶するメカニズムとして機能する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、成分を共有する2つの細胞外構造体が存在する意義を、栄養摂取のパターン変化、体内環境の変化にともなう疾患発症の観点から解明する。我々の研究から、マイクロエクソソームの形成は、ミトコンドリアにおけるクエン酸回路の活性と相関関係がある。我々が着目するクエン酸合成酵素は、ミトコンドリアにおいて細胞のエネルギー源であるATPを作り出すクエン酸回路の律速酵素である。一般的には、クエン酸産生量の低下により、肥満、糖尿、免疫低下、臓器障害が起こることが知られている。我々は、ミトコンドリア外に存在するクエン酸合成酵素(extra-mitochondrial citrate synthase; eCS)の役割に着目し、これらの現象と細胞外微粒子の形成機構の転換との関連を明らかにする。ストレスや生活習慣の乱れによって白髪が増える年齢が早まってきている。本研究の成果から、生殖機能と色素形成をつなぐ分子メカニズムの解明に発展する可能性がある。また、色素形成を促進するカルシウム波の誘導を介した新しいメカニズムの発見につながる可能性もでてきた。さらに、カルシウム波による生体機能制御、不妊症の原因究明、着床の分子メカニズムについても、細胞外微粒子の形成機構の転換に関わっているかどうかを、今後検証する。まだまだ断片的な成果ではあるものの、研究成果は得られており、より大きな概念の創出に向けて、研究を推進する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、生殖器官を中心に、カルシウム波による生体機能制御、不妊症の原因究明、着床の分子メカニズムについての研究を進展させることができた。色素細胞における老化との関連についても、論文発表に向けて研究を進める。今後も、ミトコンドリアの活性制御とエクソソームの形成抑制、マイクロエクソソームの形成促進の観点から、研究を発展させる。さらに、我々が通常摂取する食材の成分として、CD9の発現増進、マイクロエクソソームの分泌促進に効果がある物質を探索することで、正常な生体機能を維持しつつ、疾患の発症(細胞の癌化)を抑制するメカニズムの存在を分子レベルで明らかにしていきたい。すなわち、マイクロエクソソーム形成促進(すなわち、エクソソーム形成抑制)が、分化多能性をもった細胞の特性(細胞機能のデフォルト状態への回帰、オルガネラ・核ネットワークの初期化)を反映している可能性がある。そこで本研究では、マイクロエクソソームの形成メカニズムの解明に取り組むことで、マイクロエクソソームからエクソソームへの形成経路の転換機構の存在と、その経路を逆転させ、細胞機能を回復(老化した細胞から若返った細胞への転換)させる物質の探索をめざす。マイクロエクソソームの形成を促進する食材や栄養素を明らかにできれば、食材のもつ、健康維持への効果が科学的に証明できる。疾患ゲノム解析については国内有数の小児疾患の研究機関としてノウハウが蓄積されており、マウスの表現型から疾患解析につなげることが可能である。機器分析による研究支援活動に加え、研究の方向性に関する打ち合わせを積極的に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
外部委託経費として予定していた研究費を、サンプル調整に時間がかかり過ぎたため、支出できなかった。さらに、本年度中に予定していた英文原著論文の掲載料が、論文の査読に時間がかかったため、支出されなかった。次年度に支出する予定である。
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